釜ヶ崎のススメ(原口剛他)の書評・感想

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釜ヶ崎のススメ

本書は、釜ヶ崎に関わる研究者が編著となり、様々な人に釜ヶ崎に関する原稿を執筆してもらい一冊にまとめた作品です。内容はかなり多岐に渡り、釜ヶ崎の歴史や地図から釜ヶ崎を読むと言った研究的なものから、釜ヶ崎で実際に日雇い労働を体験した若者からのアドバイス、釜ヶ崎の子供たちを見る施設の人や釜ヶ崎で活動する神父によるコラムなど、硬軟取り揃えて様々な文章が並びます。冒頭で、どこから読んでもらっても構わない、と書かれているように、確かに冒頭から一貫するようなテーマ性とか連続性みたいなものは、特別ありません。唯一のテーマは「釜ヶ崎に関すること」というだけであって、後は何でもOKという感じの作品です。
内容については後で色々書きますけど、これは面白い作品でした。釜ヶ崎というものにどんなイメージを持っているのか、それは人それぞれでしょうけど、なんだか怖いところだとか、3年弱も逃亡を続けた市橋容疑者がいたところだっけ?とか、そういうマイナスのイメージが結構あるんじゃないかと思います。
本書は、そういうマイナスのイメージを結構払拭してくれる作品です。なるほど、釜ヶ崎ってこんな歴史背景を持っていて、今こんな街になっているんだ!という、新鮮な驚きがありました。釜ヶ崎が舞台の一部になってる、森絵都「この女」や西村賢太の「苦役列車」などの小説を読んで、漠然としたイメージはあったんですけど、それが覆される感じがして、すごく面白いなと思いました。
本書を読んでとにかく感じたことは、釜ヶ崎という土地は時代の最先端を行っている、ということです。そんなバカな、と思うでしょうか。でも、本当にそうなのです。一体何で最先端なのかというと、非正規雇用における労働問題と、生活保護をベースにした民間による福祉です。この二つだけでも、釜ヶ崎って凄い街だなという感じがします。
まず非正規雇用における労働問題の方から書きましょう。
釜ヶ崎では、いわゆる「日雇い」と呼ばれる仕事が斡旋されます。これは、その日の仕事分の給料をその日に手渡されるもの(現金)と、一定期間の仕事の契約を交わし給料はその期間終了後に渡されるもの(契約)とに分かれています。
こういう<現金>や<契約>という雇用形態は、いわゆるドヤ街と呼ばれるところ以外では一般的ではないにせよ、基本的に彼らは非正規雇用です。そして今日本は、「釜ヶ崎が全国化した」と呼ばれるほど、非正規雇用の問題が表面化しています。
釜ヶ崎では、もう何十年も前から非正規雇用者たちによる労働環境の改善が闘われており、その成果としていくつかのセーフティネットが釜ヶ崎独自の仕組みとして成立しました(現在ではなくなっているものもある)。
例えば、あいりん職安にいけば、労働者たちは白手帳(日雇雇用保険手帳)をもらうことが出来る。これはどういう仕組みかというと、仕事に行く毎に現場で業者の印紙を貼ってもらう。そして、二ヶ月で26日分の印紙が貯まったら、翌日には失業手当(アブレ手当)と呼ばれる、最高7500円のお金を、一定期間受取ることが出来る、という仕組みだ。
また、白手帳を持つ労働者には、<モチ代・ソーメン代>と呼ばれる、夏・冬におけるボーナスのようなお金を受け取ることも出来たという。
また釜ヶ崎には、NPOや教会による炊き出しが頻繁に行われる他、冬の寒さの厳しい時期を乗り切るための支援である「越冬闘争」も毎年行われている。

感想

他にも、実際に釜ヶ崎で日雇い労働を経験した若者による様々なアドバイスとか、釜ヶ崎におけるキリスト教の二つの立場の違いの説明など、面白い話が満載です。様々な時代の地図を並べてあれこれ解説している章もあった。これは、大阪に住んでいる人ならなかなか面白いんじゃないかなと思う
様々な立場の人が様々な視点から釜ヶ崎を描くことで、テレビの報道で瞬間的に映し出される、イメージとしての「釜ヶ崎」ではない、もっと血の通った温かみのある「釜ヶ崎」を連想することが出来た。現時点で「釜ヶ崎」という土地に特別な興味がなくても、楽しめる作品だと思う。今あなたが「釜ヶ崎」に対して何らかの悪いイメージを持っているのだとすれば、余計楽しめるかもしれない。冒頭でも書いたけど、二つの意味で釜ヶ崎は最先端を走っている土地だと思いました。釜ヶ崎での有り様が、日本全国にモデルとなる、そんな時代も来るかもしれません。是非読んでみて

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