サムシングブルー(飛鳥井千砂)の書評・感想

683views黒夜行黒夜行

このエントリーをはてなブックマークに追加
サムシングブルー (集英社文庫)

27歳の梨香は、2年間付き合って、結婚も考えていた智久と別れてしまった。何か特別な理由があったわけではない。なんとなく一緒にいることに理由が必要になってきて、ちょっとした諍いも増えてきて、それでなんとなく別れる感じになった。
やっぱり、辛い。これまでだって、色んな人と付き合ってきて別れを経験してきたくせに、やっぱり辛い。
智久と別れた翌日、梨香の元に衝撃的なものが届く。
結婚式の招待状だ。
別れた翌日に結婚式の招待状、というシチュエーションだけでしんどい。でも、理由はそれだけじゃなかった。
結婚するのは、高校時代の元彼の謙治と、高校時代の親友の沙希ちゃんだったのだ。
二人が付き合ってるなんて、全然知らなかった。
高校時代の友人で今でも付き合いのある昇君を含めた四人は、高校3年の一年間、ほとんどずっと一緒にいた。だから、昇君が知らなかったはずがない。言い難かったんだろうけど、やっぱりいきなり知らされるのは、キツイ。
結婚式には、体育祭の実行委員のメンバーが呼ばれているらしい。
突然職場にやってきた、高校時代沙希ちゃんと付き合ってた、ちょっと空気の読めない野島君からそんな話を聞いた。そして、体育祭の実行委員で、何かプレゼントを贈ろうという話になっている、ということも。
正直、あんまり気が進まない。けど、嫌だなんていうわけにもいかない。梨香は不安定な状態のまま、久々に再会する高校時代の同級生たちと、色々話を進めていくことになる。
自分の感情で精一杯になりながら、揺れ動く気持ちを抑えて二人を祝おうとする梨香。高校時代の同級生の色んな一面を改めて知ったり、ある深い悲しみにくれていた弟の奥さんと話をしたりする中で、少しずつ梨香は、自分の輪郭を取り戻すきっかけを掴んでいく…。
というような話です。
飛鳥井さんの作品は、とても小さな世界をとても大事に描いている印象がある。飛鳥井作品で描かれるのは、僕達の身近にある、凄く狭かったり、凄く小さかったり、そういう手の届く範囲の世界だ。そういう小さな世界に生きる人達を丁寧に描く眼差しが、いいなと思う。自分の人生には、特別きらびやかなこともないし、特別かっこいいこともないけど、でもしっかりと今日を踏みしめてるし、明日という未来を見据えている。一人ひとりの振れ幅は小さなものかもしれないけど、それらがうまく共鳴して少しずつ大きな鳴動に生まれ変わっていくその過程を、静かに映し出そうとしている感じが、なんかいいなという感じがする。
本書は、後半になるに連れてよくなっていく感じがします。初めの内はなかなか個性が出にくい登場人物たち。とんがっていたり、突出してたりするわけではない、僕達の身近にいるようなごく普通の人達を主軸に据えると、やはり冒頭からしばらくはそこまで個々の人たちへの思い入れを持ちにくい。でも、ずっと読んでいくと、じわりじわりと彼ら彼女らのことが内側に染み込んでくるような感じがする。さっきも書いたけど、振れ幅は大きくない。劇的な何かがあるわけではない。でもそれが、昨日と今日と明日の差がぼんやりしているような僕達の人生そのものようで、なんだか愛おしくもなる。そうやって、ほんの些細な変化にも目を凝らしてくれる人がいるんだ、なんて思えたりすると、特に輝いているわけでもない自分の人生を、もっと好きになれたりするかもしれない。

感想

『サムシングブルー』というのは、欧米の結婚式の慣習である「サムシングフォー」の一つだそう。「なにか古いもの」「なにか新しいもの」「なにか借りてきたもの」「なにか青いもの」の4つを身に着けて式に出るといい、というおまじないだ。「サムシングブルー」というのは、彼ら8人にとって意味のある思い出だった。ラスト、全員が喫茶店に集まるシーンも楽しい。やっぱり、なんだかんだ昔の仲間っていいよね、なんて感じがしました。
とても小さくて僕達にもその手触りをきちんと感じられる世界の中での細やかな人間関係を丁寧に掬いとっている作品だと思います。是非読んでみて下さい。

関連まとめ

本のまとめカテゴリー


コメントを書く