るり姉(椰月美智子)の書評・感想

1246views黒夜行黒夜行

このエントリーをはてなブックマークに追加
るり姉 (双葉文庫)

本書は、みんなから「るり姉」と呼ばれる女性を中心にした、家族の物語です。
本書は長編作品ですけど、章毎に視点人物が変わる連作短編集のような形式であること、そして全体的にこれと言ったはっきりとしたストーリーがあるという作品ではないので、主要な登場人物をざっと紹介することで内容紹介に替えようと思います。
本書は、渋沢家を中心に物語が進んでいく。
渋沢家の長女であるさつきは、怠け心はもちろんありつつも、なんだかんだ長女らしく振る舞ってしまう。犬を飼いたいとせがんだのに、既に世話に飽きてしまう、なんてこともあるのだけど、母親が看護師で父親がいない生活を、それでもやっぱり自分がある程度回して行かないといけないんだろうな、というぐらいの責任感はある。成長するに連れてどんどん母親に似てきたとみんなに言われてしまう。
次女のみやこは、赤髪の中学生だ。何度その髪について母親が文句を言おうが、るり姉が前の黒髪の方が良かったと言おうが聞きやしない。口調も荒っぽく、学校でもヤンキーのグループの中にいる。でも、みやこ自身は別にヤンキーじゃない。怒られるとニヤけてしまう癖がある。鉄道研究部で出会ったキング先輩(なんと本名!)といつもつるんでいる。
三女のみのりは、小学四年生の頃からバレーを初めて、以来部活動に相当力を入れている。姉二人がどうしても飼いたいと言ったアニーの散歩は、今は結局みのり一人がやっている。おばあちゃん子で、小学生らしくまだまだ子どもだ。とりあえずバレーの話を口に出したいらしく、相手が話を聞いてなくてもお構いなしに喋る。
母親のけい子は、11年勤めた病棟から、異動で精神病棟に移ることになった。精神病棟での勤務は、なかなかにハードだった。父親がいない家庭では、もちろん自分が何もかもやるしかないが、3人のうるさい娘たちの相手をするのはなかなか大変だ。『花とゆめ』を愛読していて、マンガを読んでいる時は外の会話が入ってこないぐらいのオタクである。いつも疲れているし、いつもズボンのチャックが開いている。
そして「るり姉」である。るり姉は、三姉妹の母親の妹だ。三姉妹にとっては叔母に当たる。以前は「まあ兄」と結婚していて、三姉妹はまあ兄にかなり懐いていたのだけど、何故か離婚してしまった。今は三姉妹が「カイカイ」と呼んでいる男と結婚している。カイカイを運転手にして出かけたりすることもある。
るり姉は変わっていて、予想がつかないところがある。自分なりに好きなやり方で世界と関わっていて、その行動は大抵の場合、周囲からすれば奇妙なものに映る。それでも、るり姉は気にしないし、るり姉は我が道を突っ走る。
イチゴ狩りに行ったり、過去の聞きにくいことを聞いたり、あるいはただただ他愛もない日常を過ごす中で、彼女たちはるり姉と関わり、振り回される。そんなささやかな日常を描き出す物語です。
全然どんな話なんのか想像出来ないかもしれないけど(笑)、でもイメージ的にはそういう感じなんですよね。なかなか本書の内容をスルッと言い表す言葉ってないなぁ、という気がします。
この作品は凄く良かったです。特に、一番初めのさつきのパートが何よりも素晴らしく良かったです。
さつきのパートでは、るり姉に何らかの異変が訪れる様が描かれる。

感想

表向きは、『るり姉を描いていると見せかけて、るり姉を鏡として、るり姉を眺めるその人そのものを描き出す』物語です。しかしその一方で僕は勝手に、『自分のことは誰にも理解されないという諦念から、世界の中で巧くやってくためにちょっと違った皮を被って生きている女性の隠された内面を読み解く』物語としても楽しみました。ただそこにいるだけで周囲を明るくし、幸せにする。そんな特異な個性を持つるり姉を中心に、個性豊かな面々を描き出す家族小説です。是非読んでみて下さい。

関連まとめ

本のまとめカテゴリー


コメントを書く