ソハの地下水道(ロバート・マーシャル)の書評・感想

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ソハの地下水道 (集英社文庫)

1970年初頭、ポーランドに暮らす初老のユダヤ人であるイグナチィ・ヒゲルは、かつて恐ろしい時を過ごした仲間から手紙を受け取り、その当時の出来事を洗いざらい書きつけることにした。本書は、その文章と、様々な人物へのインタビューを再構成して当時の有り様を再現したノンフィクションです。
1943年。ポーランドのルヴフという町は、ユダヤ人が狭い区画に押し込まれ暮らしていたゲットー地区や、少し先に収容所があり、ユダヤ人はドイツ軍により徹底的に残虐な扱いを受けていた。ホロコーストである。
ドイツ軍の上官の気まぐれで人が殺される。理由もなく、意味もなく、順番もなく、ひたすら殺戮が繰り広げられる日々。ユダヤ人たちは、自らの持てるものと知力を振り絞ってどうにか自分の身を、そして自分の家族を守ろうと努力したが、しかしそれは微々たる影響しか残さなかった。
後に『三月作戦』と呼ばれることにとなる、それまでと比べても激烈な期間が過ぎた後、一人の男がヒゲルに接触した。
ヤクプ・ベレスティツキ。父親から譲り受けた地域の顔役的な立ち位置にいるヒゲルの元で働く錠前師だった。
ヤクプは、ヒゲルが様々な家に隠れ場所を作っていることを知っていた。その手腕を活かせると思ったし、何よりもヤクプが自由に動くためには、親方であるヒゲルの許可がいる。
ヤクプは、ヴァイスという男と組んで、ある計画を進めているところだった。
それは、地下水道に潜伏しようという計画だ。
これまでも、地下水道に注目したユダヤ人はいた。しかしそれは、『脱出経路』としてだった。彼らは、地下水道を通ってどこか別の町に逃げることを目論んだ。しかし、そんなことは先刻承知のドイツ軍は、ユダヤ人が出てきそうなところに見張りを立て射殺していった。脱出経路としては地下水道は魅力的ではない。
しかし、そこに潜伏し続けると考えたらどうだろうか?彼ら三人は、ヴァイスの部屋が地下水道のライン上にあることを知っており、ヴァイスの部屋から慎重に掘り進めていき、地下水道まで至るルートを確保しようとしたのだ。
それは実に慎重に行われなければならなかった。
まずコンクリートの基礎を打ち破らねばならなかったが、しかし大きな音を出すわけにはいかない。少しずつ時間を掛け、ドイツ軍の監視の目をくぐり抜けつつ、彼らはどうにか地下水道までのルートを確保することに成功した。
興奮に満ち溢れた後、地下水道まで降りてみることにした三人。しかしそこで予期せぬ出来事が起こる。
ソハという名は後にわかるが、下水道の管理をしている労働者と鉢合わせてしまったのだ。
ヒゲルは、周囲の反対を押し切って、ソハを信頼することに賭ける。ポーランド人であるソハは、ユダヤ人を見つけドイツ軍に知らせれば、多額の報奨を手に出来る立場にいる。しかしソハは、彼らの潜伏に協力すると申し出てくれたのだ。
順調に行くかに見えた計画は、ドイツ軍の動きによってまったく予期せぬものになってしまう。
5月31日。ドイツ軍がゲットー地区で銃を乱射し、建物に火を放っていく。どこかで彼らの計画を耳にしたのだろう、地下水道へ向かう人で大混乱に陥った。当初少ない人数で潜伏するつもりでいたが、地下水道には大量のユダヤ人が逃げ込むことになってしまったのだ…。
というような話です。
これは凄い話でした。ホロコーストの話は、ノンフィクションはそこまで読んだことがないと思います。フィクションも、「サラの鍵」っていうのを読んだことがあるぐらいで、ホロコーストについては全然詳しくないでしょう。

感想

しかしそれでも、こうやって当時の状況が記録として残されるというのは良かったと思う。どれだけ想像の及ばない世界であろうとも、二度とこんな経験をする人を生み出してはいけない、ということぐらいは誰にでも理解できるはずだ。彼らの苦しみをその100分の1も理解することは出来ないだろうけども、そのたった100分の1でさえを読むものを打ちのめすだけの現実の圧倒さに、なんか怖い気分になってきます。
ドラマ、なんて呼び方をしてもいいのか分からないけど、彼らの間にはまさにドラマとしか呼びようのない、とんでもない出来事が次々に襲いかかる。超絶的に劣悪な環境で、決して親しいわけではない人間と14ヶ月も過ごす。僕らが感じなくてはいけないことは、たとえそんな生活を選択しなければならないとしても、まだ地上よりはましだったという現実だ。こんな現実がかつて存在したのだという恐ろしさを、是非体感してみてください。

ソハの地下水道 (集英社文庫)

ソハの地下水道 (集英社文庫)

  • ロバート・マーシャル

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