64(横山秀夫)の書評・感想

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64(ロクヨン)

凄かった。
とんでもない作品だった。
こんな警察小説を書けるのは、横山秀夫しかいないだろう。

内容に入ろうと思います。
三上は、警務部広報室に所属する警視で、広報官である。
長年、刑事部の一課と二課を渡り歩き、数々のホシを挙げてきた、生粋の刑事だった。
しかし三上には「前科」があった。
刑事三年目に、何故か広報行きを命じられた。たった一年で刑事部に戻ったが、その時の広報経験が、三上を苦しめる「前科」となったのだ。
広報に情報を流せば記者に筒抜けになる。
刑事はみなそう思っている。三上とて、刑事時代はまさにそう思っていた。
刑事時代、三上がどれだけホシを挙げようとも、書かれてはならない捜査情報が新聞に出る度、上司と同僚の視線は不自然に三上を避けた。
この春、赤間警務部長に異動を内示された時も、その「前科」が頭をよぎった。
三上は、二年で刑事部に戻ることを目標に、それでいて広報室の改革に取り組んだ。
かつて警察には、広報という仕組みは存在しなかった。刑事には、自分の裁量で記者に情報をもたらすある程度の自由があった。自らの手柄を記者に話すことが出来た。しかし、広報という仕組みが出来、情報の流れは滞った。組織運営を担う警務部に所属する広報室は、「警察の現業」である刑事部から、情報がまったく入ってこなくなった。情報を一元化するために作られたのに、入ってくる情報は離島に近かった。刑事部からは、捜査情報漏れがあれば突き上げをくらい、記者クラブからはまともな情報が入ってこないと突き上げをくらう。広報が名実ともにエリートコースになっている大規模県警に追いつかんと、広報「室」から広報「課」への看板の掛け替えも進んでいるようだが、D県警ではまだ「室」のままだ。人員拡充の話もない。
三上は、そんな広報室を、外へ開かれた「窓」にすべく改革に取り組もうとした。刑事部に戻る意志は捨てることなく、そのため刑事部との繋がりをそれなりに保った上で、警務部広報室の広報官として、真っ当な広報を目指すつもりだった。
しかしそれは、赤間刑務部長の思惑とは違った。赤間は、「知らなければ喋りようがない」という考えで、三上に「強面の案山子」の役割を求めた。好き好んで広報官になったわけではなく、刑事部に戻りたいと思っている三上は、自らの身の振り方の難しさを思う。
さらに、三上を追い詰める出来事が起こる。
娘のあゆみが失踪したのだ。
心の病気になり、部屋から出なくなったあゆみは、ある日突然いなくなった。三上も、元婦警だった妻・美那子も必死で探すも、一向に見つからない。
三上は、あゆみを見つけ出すために、悪魔に心を譲り渡してしまう。
三上には、選択肢はなかった。何度も、これは家族のためなのだと言い聞かせた。しかしそのために三上は、手足を縛られたような状態になっている。折角順調に進んできた広報室改革。記者クラブの面々とも少しずつ関係を築けてきた矢先の出来事だっただけに、三上としても忸怩たる思いがある。
さらにそこに不運が重なる。
全国で厄介な問題として持ち上がっている『匿名問題』にぶち当たったのだ。
広報が記者クラブへの会見をする際、これまでは基本的に実名を旨としていた。事件の状況によって、広報と記者クラブの相談の中で、記事にする際匿名にするかどうか決める。そういうやり方が普通だった。しかし、個人情報保護の機運の高まりや、マスコミ取材による被害者のプライバシーの流出などが社会問題になるに連れて、警察発表の段階で記者に対して匿名で報告されるようになっていく。

感想

本書の凄さの一つは、現在進行形で起こる事件がほとんどない、ということだ。普通の警察小説であれば、捜査中のデカイ事件が何かあり、それに様々な要素を組み合わせて行くだろう。しかし本書は、広報室が巻き込まれる、マスコミとの諍いのタネになる事件こそ現在進行形だが、基本的には組織政治の力学と、14年前に起こった「ロクヨン」という事件の話で物語が進んでいく。それだけの要素でよくもまあこれだけスピード感のある魅力的な物語を紡げるものだなと思いました。
自らの登場によって、警察小説というジャンルに新たな突風を吹きつけた横山秀夫が、この最新作によって、警察小説をさらなる高みに押し上げた。大げさに聞こえるかもしれませんが、僕は本当にそんな風に思います。凄い作品を読みました。横山秀夫完全復活!という表現ではまったく足りない、進化した横山秀夫の到達点を見ることが出来るのではないかと思います。是非読んでみて下さい。

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