楽園のカンヴァス(原田マハ)の書評・感想

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楽園のカンヴァス

岡山県にある、大原美術館。中国地方はもとより、日本屈指の西洋美術コレクションを所蔵することで知られるこの美術館に、監視員として働く早川織絵は、「コレクター以上に名画に向き続けるのは、美術館の監視員だな」という、昔言われた言葉を時々思い出す。監視員は、鑑賞者のために存在するのではない。作品と展示環境を守るために存在する。一時も気を緩めてはいけないが、しかしどうしても、名画の世界に入り込んでしまう瞬間がある。昔からの癖は、そう簡単には抜けてくれない。
ある時織絵は、国内屈指の西洋美術史家であり、大原美術館の館長でもある宝尾義英から呼び出しを受ける。先日、周囲にはそうと知らせていないが、娘が学校の引率で美術館にやってきた時、ガムを噛んでいることを窘めたことがあった。まさかそれについてのクレームでもあったのだろうか?
さっぱり理由が判然としないまま館長の元へ連れられると、そこには暁星新聞社文化事業部の高野智之という人物がいた。
そこで織絵は、驚くべき話を聞かされる。
新聞社の文化事業部と言えば、国内の美術館と組んで大規模な展覧会を行うパートナーのようなものだ。これは、日本独特のシステムだ。欧米の美術館であれば、西洋美術展をやりたければ、どこかの美術館から借りたい作品があれば、何か自分のところの作品を貸し出すことで取引を成立させることができる。しかし日本の美術館には、他の美術館に貸し出せるような名画があまり多くない。そこで多額の貸出料が必要なのだが、新聞社がその経費を肩代わりすることになるのだ。
高野は、アンリ・ルソーの大規模な展覧会を企画しているという。
アンリ・ルソー。「税関吏」というあだ名が有名で、「遠近法も知らない日曜画家」という評価がずっとなされてきた画家。40歳から本格的に絵筆をとり始めたルソーは、同時代に時代の寵児となっていくパブロ・ピカソに見出されるも、生前はまったく評価されることがなかった。その後も長く、下手くそな絵を描く画家というだけの評価で終わってしまっていた。熱心なルソー研究家がその再評価に務め、また著名な美術館もその評価を定めるような展覧会を開くことでようやくルソーに陽の目が当たり、現在では「素朴派の祖」とされる画家として評価されている。
「ティム・ブラウンという名前をご存知ですか?」
高野がそう言うのを聞き、織絵は驚愕を隠すことが出来なかった。17年前、ある濃密な一瞬を過ごした同志。現在では、MoMA(ニューヨーク近代美術館)のチーフ;キュレイターである彼が、織絵を指名しているのだという。
17年前。MoMAのチーフ・キュレイターであるトム・ブラウンのアシスタントでしかなかったティム・ブラウンは、ある一通の驚くべき手紙を見つける。それは、美術界において「伝説」と呼ばれ、実在するかどうかさえ判然としないコレクター、コンラート・バイラーからの手紙であった。本来は上司であるトムの元に届くはずが、一字違いで自分の元に届いてしまったのだろう。そんなのは日常茶飯事だ。しかしティムは、そこに書かれている内容に釘付けになった。
バイラー氏の所有する、未発表のルソーの名作を調査して欲しい。
ティムは、すぐさまバーゼルへと飛んでいた…。
というような話です。
これはなかなか凄い話でした。自身もキュレイターだったことがあるという著者の経験を存分に生かした作品ということでしょうか。

感想

個人的には、折角織絵と織絵の娘との確執が冒頭で描かれるのだから、そこももう少し掘り下げてもよかったかなぁ、という感じがしました。あるいはまったくなくすとか。ちょっと中途半端な扱いで、そこだけ個人的にはちょっと気になりました。
美術の世界がまったく分からなくても楽しめるはずです。何かにこれほど惚れ込むことが出来るという事実がそもそも羨ましいし、その『熱意』こそが、「欲」から名画を守る最大のカウンターなんだろうなという感じもしました。是非読んでみてください。

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