北の舞姫 芙蓉千里(須賀しのぶ)の書評・感想

853views黒夜行黒夜行

このエントリーをはてなブックマークに追加
北の舞姫 芙蓉千里II (角川文庫)

本書は、シリーズ第二作目です。一作目の「芙蓉千里」の感想はこちら。
前巻の大雑把な設定紹介も含めた内容紹介です。
日本で辻芸人をしていたフミは、自ら望んで大陸にやってきた。大陸一の女郎になるんだという、ちょっと変わった夢を抱いてやってきたが、小さい体で器量も特に良いわけではないフミは、赤前垂れとして雑用をやらされることになる。
しかし、辻芸人として仕込まれた角兵衛獅子を披露したことで状況が変わる。フミは、店始まって以来の芸妓として訓練を受けることになり、やがて哈爾濱(ハルビン)中の話題を掻っ攫う踊り子となっていく。
そんなフミには、山村と黒谷という二人の男が深く関わることになる。
幼い頃、数度会っただけの山村に、フミは心を奪われてしまう。何をしているのか、何をしてきたのかさっぱりわからない謎めいた男で、自分の心の内を見せない山村。しかし、そんな山村にフミは、心が掻き毟られるほどの衝動を覚えることになる。
黒谷は、黒谷商事という大会社の社長を父に持つ男で、訳あって哈爾濱でブラブラしていた。芸事に造形が深く、やがてフミのパトロンとして、フミの舞を育てていく存在となっていく。
フミが売られた妓楼「酔芙蓉」が時代の流れと共に店じまいをするというところで一巻が終わる。
本書では、相変わらずフミは哈爾濱で芸妓として活躍している。酔芙蓉はなくなり、女郎たちは散り散りになったが、フミは自分だけの夢ではない「大陸一の芸妓になる」という目標に向かって、稽古を怠らず、また様々なところに呼ばれて舞うことで、多くの人間を養っていた。
大陸を取り巻く戦況は刻々と変わり、上流階級の人間と関わることの多いフミは、会話の端々からそれを読み取ってしまう。そしてその変化は、フミの生活にも着実に影響をもたらすことになっていく。
フミにとって大きな変化となった出来事が3つある。
一つ目は、黒谷の弟である海軍士官・武臣と期せずして邂逅したこと。彼は、フミと黒谷との関係に関わる困難な決断を強いる。
二つ目は、フミの舞に対する冷静な評価だ。これまで称賛を浴び続けてきたフミだったが、フミの舞に対する客観的な評価を耳にし、さらに自身でもそれに気づいていくようになる。
そして最後は、シベリアへの軍への慰問。思うところあって、シベリア行きをフミ自ら志願したが、そこで思いも掛けない出来事にまきこまれていく。
フミの人生は、激しく流転する。立ち止まることなど出来ない、激しく熱いものを内側に持ち続けるフミは、その熱に動かされるようにして、大陸中を縦横無尽に駆け巡る…。
というような話です。
いやはや、やっぱり凄いなぁ、このシリーズ!二巻目も、圧倒的な筆力で読者を翻弄してくれます。
前作では、基本的にフミは哈爾濱から出なかった。それは、肉体的にもそうなのだけど、心もほとんど哈爾濱から出ることはなかった。それは、酔芙蓉こそがフミにとって世界の中心であって、そこだけで世界が完結していたからだ。確かに、酔芙蓉の外にも、フミの気を惹くものはあったし、時折フミはそれに想いを馳せることもあった。でも基本的には、哈爾濱という土地で、酔芙蓉という空間でいかに生きていくかというのが、フミにとっては一大事であって、人生のすべてであった。

感想

フミは、あらゆる人の間を全力ですり抜けながら、目指すべき道をひた走る。その姿はカッコイイし、神々しくもある。誰にもたどり着けないような地平を目指しながら、一方で自分なりの幸せとは何か自問してしまう日々。猪突と苦悩が入り交じるごった煮のような人生の中で、フミは様々な決断をし、そして果てしない場所へとたどり着くことになる。豪快さと美しさを兼ね備えるフミの舞の如く、フミの人生も豪快さと美しさに彩られる。読むものを惚れさせるその生き様、是非読んでみてください。

関連まとめ

本のまとめカテゴリー


コメントを書く