永遠の曠野 芙蓉千里(須賀しのぶ)の書評・感想

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永遠の曠野 芙蓉千里IV (角川文庫)

本書は、「芙蓉千里」「北の舞姫」に続く、芙蓉千里シリーズ第三弾です。前作までの詳しいあらすじは、それぞれの感想を読んでください。
ざっと書きましょう。
日本で辻芸人としてなんとか生きてきたフミは、大陸一の女郎になる、という根拠のない思い込みだけを頼りに哈爾濱(ハルビン)までやってくる。そこでフミは、予想していたのとはまったく違う人生を歩むことになる。
自分を熱烈に支えてくれる男と、自分がどうしても惹かれてしまう男。日に日に評価の高まるフミは、しかし一人の女性としての生き方にずっと思い悩むことになる。
様々な決断の末に、フミは草々と拡がる曠野に立っていた。馬賊として生きる。フミはその生き方を自ら選び取った。というのが大体前作までの内容です。
幼い頃に心を鷲掴みにされて以来、ずっとフミの心の内側にい続けた男・楊建明は、馬賊の頭目として恐ろしく優秀な男だった。そして同時に、月のように冷静な男だ。建明は、ある筋から金塊を託される。国というものに縛られたくないと、日本から飛び出してきた建明は、国の独立や覇権争いでゴタゴタしている動乱の最中、自身とはまるで関係のないモンゴルの独立のためにあらゆる手を尽くすことになる。
やっと建明と一緒にいられるようになったフミ。しかし、新入りであるフミは、まだ建明以下馬賊たちに、仲間だと認めてもらえていない。建明の義弟兄からは、太太(奥さん)として堂々と振舞っていればいい、と諭されるが、黙って大人しくしていられるフミではない。これまでのフミの人生と同じく、全力で立ち向かい、あらゆるものを自力で手にして、次第にフミは仲間として受け入れられるようになっていく。
馬賊としての生活は、相当に過酷だ。しかしフミは、建明の傍にいられるのならなんでも耐えられた。
幾多の国が滅び、荒れ、その間を建明らは跋扈した。そして次第にフミは、仲間たちにとってなくてはならない存在になっていくが…。
というような話、なんですけど、本書の内容紹介は難しいです。
大げさではなく、このシリーズを読んでいる間、僕の目は大体潤んでいる。特にこのシリーズ3巻(最終巻)である本書は、その潤みっぷりも凄かったなぁ。
別に、切ないシーンがあるとか、悲しいシーンがあるとか、そういうわけでもない。そういうシーンももちろんあるんだけど、そうじゃない場面でも僕の目は潤んでいる。
それはもう、フミという女の生きざまに惚れ込んでいるからだろうなぁ、と思う。
建明が、フミをこんな風に評する文章がある。

『それは、フミ自身、常に捨て身だからだろう。保身もなにも考えず、いつも身一つで飛びこんでいく。一歩間違えれば死ぬ、危険な博打だ。頭のいいやり方とは言えないかもしれないが、それだけに成功したときの見返りは非常に大きい。そしておそらくは、フミ自身にまったく自覚はないだろうが、勝算はあるからこそ彼女はそうするのだ。自分には成功させる力があると本能で知っているために、命を担保に大博打に迷わず飛び込む。』

これは、シリーズを通じて描かれてきたフミの有り様を、実に的確に現していると思いました。
そう、こんなとんでもない生き方が出来る女の存在に、もうたまらなく惹かれているし、心をかき乱されているのだと思う。
フミの行動や選択は、馬鹿げているようにしか見えないことが多い。周囲の人間は常に反対するし、フミが決断して実行しようとしている時(あるいは実行している最中)でも、考えなおした方がいいと何度も言われることになる。

感想

本当に素晴らしいシリーズだと思いました。最近では、宮部みゆきの「ソロモンの偽証」を読んだ時に、あー読み終わりたくないなぁ、って思ったんですけど、本書を読んで同じことを思いました。あー、もうフミの物語は読めないのかー、って。ちょっと悲しいですね。壮大なスケールと、圧倒的な魅力を持つキャラクターが、波瀾万丈という表現では足りないほどのとんでもない人生を歩んだその軌跡。是非その密度を、体感してください。

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