らも 中島らもとの35年(中島美代子)の書評・感想

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らも 中島らもとの三十五年 (集英社文庫)

本書は、「不世出の天才」と帯に書かれている多才な男・中島らもの奥さんが描く、高校時代に出会ってから亡くなるまでの「らも伝」です。
本書の冒頭が、らもの死のシーンである。ここからしてとても良い。この初めの場面を読むだけで、奥さんである著者の度量の広さ、そしてらもへの愛がよく伝わってくる。

『「僕お酒飲んでるから、そんなに長生きしない。覚悟しといて」
ことあるごとにそう聞かされていたから、今こうして彼がベッドに横たわっていることは、ある意味、私にとって練習問題を繰り返して臨んだテストのようなものだった。』

いきなりこんな素敵な文章が出てくる。この時点で僕は、本書で描かれるような、中島らもと著者のなかなか壮絶と言ってもいい結婚生活のことは知らない。それを知った上で、改めてこの文章の触れると、より奥さんの心の広さが伝わってくるような感じがする。「練習問題を繰り返して臨んだテストのようなもの」なんて、そんな気持ちで誰かの死に臨むことが出来るなんて、本当に素敵だと思う。
何度も死の淵を彷徨ってきたらもだから、今回も別に死ぬことはないだろうと、全然深刻に捉えていないかった著者は、しかしらもの死に触れて、しかしこんな風に書いている。

『「怪談から転げ落ちて死ぬという、そんなトンマな死に方がいいな」
つきあいはじめた頃からのらもの口癖だ。だから、彼は自分が願っていたとおりに死んでゆけて満足しているだろう。そうだよね?らも。』

凄く素敵だと思った。自分が死んだ時に、哀しみよりも強く、こんな風に思ってくれる人がいるなら、それは本当に、お互いにとって幸せだった人生なんだろうなと思う。らもと著者の人生は、控えめに言っても「まともじゃない」感じで、その中で著者自身も色々と辛く悲しい現実と向きあってきたのだけど、それでも、このらもの死の描写を読む限り、あぁらもも奥さんも、お互いに出会うことが出来て幸せだったんだろうなぁ、と思うことが出来た。
僕は、中島らもの作品をほとんど読んだことがない。自分の読書記録を見返すと、「ガダラの豚」「恋は底ぢから」「こらっ」「こどもの一生」という四作品しか読んでいないようだ。「ガダラの豚」と「こどもの一生」は小説だし、「こらっ」はなんだったか覚えていないけど、「恋は底ぢから」は恋愛相談エッセイみたいな作品だったと思う。
本書を読む限り、中島らもは、自分の過去やその時々の周囲のあれこれを、かなり色んなエッセイに書いているようだ。でも僕は、それらを一切読んだことがない。また、中島らもの代表作の一つと言ってもいいだろう「バンド・オブ・ザ・ナイト」という小説は、家に大勢の居候がいた時代のことをベースにしているようだ。それも読んでいない。
恐らく中島らもファンが読めば、この人はあのエッセイで出てきたあの人だとか、あの小説のキャラはきっとこの人がモデルに違いない、みたいなことがわかるのかもしれない。でも、僕はそういう事前知識みたいなものは一切持っていない。だから、そういう方面には触れられませんと、先に書いておこうと思います。
僕にとって中島らもという人のイメージは、特にはっきりとしたものを持っていたわけでもなく、なんとなく、刑務所に行ってたり、クスリ的なのを吸ってたりする小説家なんだろうなぁ、というぐらいのものでしかなかった。だから本書を読んで、中島らもが灘高出身の超秀才であることや、有名な賞をいくつも受賞したことがある有名なコピーライターだったということも知らなかった。

感想

「異常な日常」は、「たった一人の理解者」がいさえすれば成立する。しかし、その「たった一人の理解者」と出会うことがどれほど奇跡的なことか。らもと著者は、奇跡的な出会いを果たしたと言って言い過ぎではないだろう。誰にも何にも縛られることなく、羽ばたける限り自由に羽ばたいた二人の人生の軌跡。その力強さと真っ直ぐさを、是非体感してください。

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