人間はいろいろな問題についてどうかんがえていけば良いのか(森博嗣)の書評・感想

1195views黒夜行黒夜行

このエントリーをはてなブックマークに追加
人間はいろいろな問題についてどう考えていけば良いのか (新潮新書)

本書は、「抽象的な思考」を身に付けるための方向性を指南するような、そんな作品です。
人間は、色んな価値観や常識や思い込みや考え方に囚われている。そういう生き方をしていると、具体的で論理的な思考に絡め取られていってしまう。
森博嗣は、ここ10年で一番多い質問として、「ものごとを客観的に考えるにはどうしたらよいでしょうか?」というものを挙げている。抽象的思考も、客観的な思考と関係がある。抽象的に考えることで、どんな自由を手に入れることが出来るのか、どんなものが見えてくるようになるのか。また、抽象的に考えるようにするためにはどんな訓練が出来るか。本書ではそういうようなことが書かれている作品です。
非常に内容が説明しにくい。
森博嗣も作中で何度も、今書いている文章は抽象的でわかりにくいかもしれない、というようなことを言う。僕はそれほど分かりにくさを感じないのだけど、具体例が非常に少なく(これは著者がそう意図しているからだ)、定義も曖昧な表現(◯◯のような、という表現が多用される。それを多用することについて、巻末に説明がある)が非常に多く出てくる文章を苦手だと感じる人も多いかもしれない。
そんな人に、森博嗣はこんなことを言う。

『まえがきからして、いきなり抽象的な話になっている。こういう話を聞いたり、このような文章を読んだりすると、多くに人は眠くなってしまうだろう。それは日常、具体的なし激ばかりに囲まれているから、抽象性を求める感覚が退化している証拠だと思って欲しい。』

森博嗣は、本書のスタンスについて、こんなことを書いている。

『ただ断っておきたい。この本を読めば、その「客観的で抽象的な思考術」なるものが会得できるのか、というとその保証はない。基本的に、ノウハウを教えれば、すぐにできるようになる、というものではないからだ。
それでも、少なくとも「客観的になろう」「抽象的に考えよう」と望んでいる人が本書を読むだろうし、また、真剣にそれを望んでいるのなら、必ずその方向へ近づくことになるはずだ。その近づき方を多少早める効果が、この本にはあるかもしれない。そう願っているし、多少でもそれを信じなければ、やはり書けないと思う』

『単に、それだけのことである。これも、最初に断っておかなければならない。つまり、客観的で抽象的な思考、あるいはそれらを伴う理性的な行動ができても、せいぜい、もうちょっと有利になるだけの話なのだ。是が非でも、というものではない。それができるからといって、人間として偉くなれるわけではない。
ただ、そういう考え方が、あるときは貴方を救う、と僕は信じている』

本書は、先程も書いたように、具体的な話が非常に少ない。読者が具体例に引きずられてしまわないように、出来る限り具体例を入れないようにしているためだ。だから、「(具体的に)こうした方がいい」というような話はほとんど出てこない。出てきたとしても、それだけではどんな行動を取ったらいいかよくわからないような、やはり曖昧さを備えたアドバイスだろう。

感想

本書の内容は抽象的すぎて、普段「考えていない」人にはとても読みにくいかもしれない。具体的な話がほとんど出てこない文章はなかなか追えないかもしれない。でも、そういう人にこそ、本書は読まれるべきだと思う。とにかく最後まで読んで見て欲しい。最後の最後の、本書を締めくくる森博嗣の言葉に、きっと勇気づけられることだろう。
自分が普段「何も考えていないのだ」と意識すること、自分が様々なものに「囚われているのだ」と自覚すること、そして自分が今「スタート地点に立てていないのだ」と知ること。それだけでも充分に意味がある。そして本書は、それを手助けしてくれる作品だと僕は思います。国民全員に読んで欲しい一冊です。素晴らしい作品でした。

関連まとめ

本のまとめカテゴリー


コメントを書く