お任せ!数学屋さん(向井湘吾)の書評・感想

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お任せ!  数学屋さん (一般書)

『数学と関係がないことなんて、この世界に存在しないよ』

少年は、そう高らかに宣言する。

『数学者は探偵にだってなれる。何にだってなれるんだ』

少年は、そう力強く主張する。

『数学は、試験問題を解くためのものじゃないんだ』

少年は、そうはっきりと口にする。

『誰がやっても、答えは一緒になる。数学は、決して僕らを裏切らない』

少年は、そう優しく諭す。

季節外れの転校生は、クラスメイトへの第一声、自己紹介の場で、皆をポカンとさせた。

「将来の夢は、数学で世界を救うことです」

神之内宙、中学2年生。GW明けに転向してきたその少年は、数学が大の苦手なソフトボール部員・天野遥の隣の席にやってきた。
夏服期間中なのにホックまで掛けている暑苦しいスタイル、ウケを狙ったわけではなさそうな自己紹介、小学生だと言っても通りそうな童顔。彼は自己紹介を終えると、すぐさま本を読みだした。それから一週間、クラスメイトも彼を遠巻きにし、彼も本だけを読み続ける。その間には、一切の交流がないままだった。
一週間後、宙は動き出す。
長い棒に布を付けたような幟のようなものを自分の机に付けていたのだ。そこに書かれていたのは、

『数学屋』

という単語。
…意味が分からない。
遥は、隣の席のよしみで、何をしているのか聞いてみると、驚くべき返答が返ってくる。

「数学の力でみんなの悩みを解決する、お悩み相談所みたいなものだよ」

話が通じるとは思わなかったけど、まさかここまでとは…。数学で悩みを解決する?何を言っているのだろう、この少年は。
しかし、成り行きで相談してみた悩み事を、まさに数学を使って宙はすぐさま解決してしまった。そして遥は、今まで苦手で、考えるのも嫌だった「数学」というものをちょっと見直した。
それから、遥の協力もあって、『数学屋』は繁盛していくことになるのだが…。
というような話です。
これはなかなか面白い作品でした。特に、ラストの展開がメッチャいいですなぁ。
数学を扱った小説である「数学ガール」と対比させると、「数学ガール」が【初級者から上級者までを魅力する物語】だとすれば、本書は【苦手者を初級者に変える物語】と言えるのではないかと思う。
「数学ガール」は、レベルの低いところから高いところまで自在に行き来し、あんまり知識はないんだけどという人から、数学はかなり好きっすみたいな感じの人までごそっと取り込むことができる凄まじい小説なんだけど、もし唯一欠点があるとすれば、「数学に興味がない人には面白さが伝わりにくい」という点だろうか。もちろん、そこまで拾える物語を書けるとしたらそれは凄すぎるので、全然それは欠点ではないのだけど、敢えて挙げるとすればそうなる。その点で、「数学ガール」と本書は大きな差があると言えるだろう。本書の場合、数学に関してある程度以上知識がある人には、正直そこまで響く描写は多くはない。少なくとも、中・上級者が、数学的な知識に関して本書から得られることは特にないだろう。もちろん、本書は元々そういう層をターゲットにしていないから欠点なわけではないのだけど。本書は逆に、「数学に関心がない人」にこそ読んでもらえる可能性がある、という点だ。苦手だ、嫌いだ、生理的に受け付けない。そんな風に思っている人に、数学のちょっと違った面を感じてもらえる可能性がある。そういう作品ではないかと思います。
たぶん数学が苦手な人って、まあ苦手な理由は色々あるだろうけど、「計算が不得意」っていうのがあるんだろうと思う。

感想

そう。その通りなのだ。数学の数学たる本質は、計算ができるかいなか、なんていうところにはない。ちゃんと式とか数字を入力したら、電卓とかコンピュータが計算を代わりにやってくれるのだ。計算が苦手だって、数学はできる。
どんな学問でもそうだろうが、最も重要なのは「好奇心」だろう。宙もこう言っている。

(宙の言っていることが理解できなかった遥が宙に猛烈に疑問を突きつけた時に)「うん、いいね。そういう疑問、大切だよ」

数学は、自然観察に近いと僕は思う。例えば、野の花を見る。花の色が赤いやつや、根っこが異常に長いやつや、葉っぱがおかしな形をしているものを見つけることができるだろう。どうしてそうなっているのかと、好奇心のある人は考える。

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