ぼくは本屋のおやじさん(早川義夫)の書評・感想

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ぼくは本屋のおやじさん (就職しないで生きるには 1)

本書は、当時はさほど売れなかったらしいけど、現在では「幻のロックグループ」と称される「ジャックス」というバンドのリーダーとして活躍していた著者が、23歳で音楽の世界から足を洗い、書店経験を積んでから書店を開業する。そこで発行していた、お客さんからの投稿を中心とした「読書手帖」(今でいうフリペみたいなものかな?)に載せた文章を中心した作品です。
本書を一言で説明すると、「実に品のある愚痴」という感じです。著者は、最初から最後まで、まあこれでもか、というぐらい愚痴っている。別に、業界紙に載せている文章ではない(そういうものもちょっとはあるらしいが)。基本的に、自分の店のお客さんに見てもらう媒体に載せているのだ。そこで、まあ愚痴る愚痴る。新刊が入ってこないだの、客注っていって出したのに入ってこないだの、神田村での商品の確保が大変だの、という業界に関することなら、まあまだ分かる。けど、同じ調子で、お客さんへの文句も書いちゃうんだから、大したもんだなぁ、と思います。いいの?そんなこと書いちゃって、いいの?という感じである。
とはいえ、先ほども書いたように、「実に品のある愚痴」なのである。鋭い刺を持った、触れれば切れてしまうような愚痴ではない。耳障りではない調子で愚痴が語られていくので、なんとなく落語とかラジオみたいな、要するに耳で楽しむ娯楽みたいな雰囲気を持っている気がする。ウダウダと愚痴っていうだけなんだけど、別に不愉快ではないし、なるほどなるほど、という感じがする。それは、僕が書店員だからという理由だけではないだろう。書店員じゃなくても、著者のことの愚痴に思わずウンウンと頷いてしまう人はいるのではないだろうか。
それは、著者の本への愛情がにじみ出てくるからだろう。

『本なんてのは、読まなくてすむなら、読まないにこしたことはない。読まずにいられないから読むのであって、なによりもそばに置いておきたいから買うのであって、読んでいるから、えらいわけでも、知っているから、えらいわけでもないのだ』

全体的に、こんな感じの調子である。本が好きなんだろうなぁ、ということがにじみ出てくる文章ではないか。そういう著者が、次のような文章を書くからこそ、不愉快には思わないのだろう。

『だって、「私は何を読んだらいいのでしょうか」とか、「この本の類書は何ですか」などと、人にたずねて、簡単に答えを得ようなんてこと自体、えばれたことじゃないんだし、本来は、本は、自分で探し、時には、捨てたくなるような本を買ってしまったり、そうした失敗を重ねながら、毎日失敗を重ねながら、ひとりで本を探すことが本当の本好きなのだと僕は思うのだ。だいたい、◯◯の入門書は◯まるである。なんてことは、人によって絶対違うのだから、読書相談を受け持つ方も受け持つ方である。』

『本の売り方に、うまいへたがあるように、本の買い方にもうまいへたがあると思う。本の買い方のまずさや売り方のまずさを、僕は始終身にしみているから、どういう売り方やどういう買い方をすればよいのかなどということは、いまだもってわからない。ただ、言えることは、たと、相手の売り方がへたでも、飼い方さえうまければ、たとえ、相手の買い方が下手でも、売り方さえうまければ、お互いに、もっと快く、本は流れていくだろうと思うことである。そして、それは、決して技術なんかではない』

感想

『本をどこから出そうが、どの取次に卸そうが、どの本屋で売ろうが、そして、読者が、どこで買おうが、売れさえすれば、手に入りさえすれば、なんでもいいというのが寂しい。金太郎飴のような本屋をつくらせている原因は、まずは、出版社にあるのだ』

『(僕ができないからそう思うのかもしれないが)数の少ない本をつきあいのある書店に優先するというのは人情であろうが(だから、もしかしたら気がつかないえれどもうちもそういう恩恵を受けているかもしれないが)、それはいやだ。明らかに自分の失敗で本が入らないのなら、当然のことだが文句はない。ただ、そうではないのに入らないと、僕はいまだに頭にくる。
仕入能力とか販売能力をもしも問うならば、そんなパイプの太さなんか、本来は関係ない。もっと事務的であってほしい。僕たちは、本を売っているのであって、顔を売っているのではない』

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