ある奴隷少女に起こった出来事の書評・感想

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ある奴隷少女に起こった出来事

『ハリエット・アン・ジェイコブズという無名の著者が、アメリカの古典名作ベストセラー・ランキングで、ディッケンズ、ドストエフスキー、ジェイン・オースティン、マーク・トウェインなどの大作家と、いま熾烈な順位争いを日々繰り広げている、と知ったら、皆さんはどう思われるだろうか』

『本書は、本国アメリカでも、出版後一世紀以上、完全に忘れ去られていた。出版社の倒産により、結局は自費出版という形で世に出ることになった本書は、出版当時、関係者がまだ存命だったこと、習いに当時の時代背景から、「リンダ・ブレント」なるジェイコブズのペンネームで執筆された。』

本書は、ある一人の奴隷少女が執筆した、ノンフィクション・ノベルである。晩年に、かつての記憶を掘り起こしながら書いたこと、またリンダ(ジェイコブズ)の手記という形式で書かれているので、その中で悪く書かれた人間の主張を知ることも出来ない。という意味で本書は「ノンフィクション」ではなく、「ノンフィクション・ノベル」だと解説の佐藤優は語る。しかし、だからと言って本書が「ノンフィクションではないわけではない」とも書く。ジェイコブズは、できうる限り、当時の心象風景まで含めて、正確に記述した。ジェイコブズの記述は、その後の研究でほぼ事実だったと証明されている。

『読者よ、わたしが語るこの物語は小説ではないことを、はっきりと言明いたします。わたしの人生に起きた非凡な出来事の中には、信じられないと思われても仕方がないものが存在することは理解しています。それでも、すべての出来事は完全な真実なのです。奴隷制によって引き起こされた悪を、わたしは大げさに書いたわけではありません。むしろ、この描写は事実のほんの断片でしかないのです。』

『わたしは注目を求めて、自分の経験を書いたのではありません。それはむしろ逆で、自分の過去について沈黙していられたならば、そのほうが心情的には楽であったでしょう。また、苦労話に同情してもらう意図もありません。しかし、わたしと同様に、いまだ南部で囚われの身である200万人の女性が置かれている状況について、北部の女性にご認識いただきたいと思います。その女性たちは、今もわたしと同様に苦しみ、ほとんどの者がわたしよりずっと大きな苦しみを背負っているのです』

著者のジェイコブズは、まえがきでそう書く。
「わたしの人生に起きた非凡な出来事の中には、信じられないと思われても仕方がないものが存在することは理解しています」と著者が書くのは、分かるような気がする。ジェイコブズが経験した数々の出来事は、まるでフィクションのように壮絶で、奴隷制度に馴染みのない現代人には想像も及ばない世界と言っていいだろう。奴隷制度が存在した時代でさえ、ジェイコブズの告白はショッキングだったようで、本書が120年間も忘れられていた理由を訳者はこう書く。

『読み書きができないはずの奴隷が書いたとは思えない知的な文章、奴隷所有者による暴力、強姦の横行というショッキングな描写、七年間の屋根裏生活、そして現代日本の読者すらぎょっとする、不埒な医師ノーコム(ドクター・フリント)から逃れるために、15歳の奴隷少女が下した決断―別の白人紳士の子どもを妊娠する―は、当時の読者にはかなりセンセーショナルであり、奴隷制の実情すら知らない、北部の読者の理解を超えていたため、本書は実話ではなく、「実話の体裁と取る作り話(フィクション)」だと受け止められた。』

感想

フィクションだと思われていた作品に光を当てたのは、J・F・イエリンという教授だそうだ。歴史学者である家倫教授は、奴隷解放運動家が遺した古い書簡を呼んでいたとき、その中にたまたまジェイコブズからの手紙が紛れ込んでおり、「著者不詳のフィクション」として本書を読んだことがあった教授は、両者が同じ文体だと見抜いたのだという。そこから研究が進み、本書は、ハリエット・アン・ジェイコブズという実在の女性が書いた実際の出来事だったことが1987年に証明され、そこからアメリカで再評価されることとなった。

ある奴隷少女に起こった出来事

ある奴隷少女に起こった出来事

  • ハリエット・アン・ジェイコブズ

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