鉄道デザインのポイント! 「水戸岡鋭治の「正しい」鉄道デザイン―私はなぜ九州新幹線に金箔を貼ったのか?」

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水戸岡鋭治の「正しい」鉄道デザイン―私はなぜ九州新幹線に金箔を貼ったのか? (交通新聞社新書)

概要

著者は工業デザイナーで、とくにJR九州の車両・駅舎のデザインで知られる。
本書では、優れたデザインが精神的な豊かさをもたらすという氏の主張を軸に
鉄道デザインの可能性が提示されている。

大きく2部構成。前半では代表作である車両のコンセプトを紹介。
後半ではデザイナーの仕事や、公共空間におけるデザインの役割を語る。

車両デザインの代表作

■800系九州新幹線つばめ  http://bit.ly/omxIjK
内装に自然木を多用し、従来の新幹線車内にはない豊饒さを強調。
九州産の山桜材や八代産のイグサなど、各所に地場素材を用いて地域性を表現した。
新800系では車内の壁に金箔を貼り込み、日本の伝統美をさらに追求。

■787系つばめ  http://bit.ly/qtuRdP
旅の贅沢さを表現するため、ホテルのような空間を目指した。
キャビンやマルチスペースなど多彩な空間に加え、間接照明や自然木で上質感を出す。
ビュッフェにはこだわった。食事(味覚)は記憶に刻まれやすいから。

■883系ソニック  http://bit.ly/pQpK06
赤・黄・青を多用した、遊園地のようなカラフルな車内が特徴。
斬新なデザインにすることで、お客さんに楽しい時間を体験してほしかった。
ワクワクする空間にいれば、人は荒んだ行動をしなくなるもの。

■885系かもめ  http://bit.ly/q5HsYh
「高級感の大衆化」がテーマ。だから、車体は手間がかかる曲面を多用した。
また、社長イスを日常で味わってほしいと、革張りの座席に。
荷物棚は航空機のようなハットラック式で、落ち着いた空間に仕上がる。

※内装は、一部変更・休止になっているものがある。

車両デザインのポイント

「歩き回りたくなる車両」は、旅の楽しさを倍増させるから優れた車両。
そのために、まずイスにこだわる。
座り心地に満足して落ち着けば、人は周囲が気になり始めるもの。

座席の柄の種類を増やす。理由は、座る席を柄で選べる楽しみがひとつ。
また、大自然にある多様性・豊かさを車内に持ち込みたかった。

列車名を車体のあらゆる所に表示する。記念撮影のポイントになるから。

予算などの制約はあるが、ガラス張りの展望車をできるだけ導入する。
美しい車窓を鑑賞するのは上質のエンターテインメントだ。

通勤列車でさえも本革シートを導入。豊かな車内空間作りにこだわる。
出身者が上京した際「ああ、地元の鉄道の方がいいな」と誇りにつながれば。

女性客室乗務員の制服デザインも自ら行う。
社長に代わり、乗客に直に接する大事な立場だから。

文化を進化させるのは「質の高いコピー」だと思う。
だから著作権にはあまり興味がない。
駅弁の包装紙も作るが、ロイヤリティはもらわない。

デザイン事務所の日常

スタッフには「仕事は掃除とサービスだけでいいよ」と常々言っている。

掃除とサービスは、いずれもデザインの基本に通じる。
弁当やお茶、和菓子を、客の人柄や季節感を考慮して適切に選び、
丁寧に出せるようになれば、デザインの基礎をつかんだと言える。

朝は8時半始業。理由はJR九州の工場の始業に合わせたから。
何か問合わせがあった時、誰か電話に出るだけでもサービス。
優れたサービスができれば、自分も周囲も幸せにできるはず。

新人スタッフはすぐ仕事をしたがる。だが、デザインはテクニックだけでは通用しない。
強い思い、作りたいものをリアルにイメージする能力を、まず身につけるべきだ。

著者のデザインの原点は、生まれた田舎で遊んだ大自然の、色や形の豊かさ。

調和のとれたヨーロッパの街並みからも影響を受けている。
地場の素材を生かした建築が風景になじむことも、欧州留学で学んだ。

公共性とデザイン

列車の車内は公共空間だ、と強く意識して仕事をしてきた。

公共空間とは、見知らぬ人同士が一緒にいる不都合を受け入れつつも、
新しいコミュニケーションを生み出す場所。

日本人は公共空間での人間関係を、面倒だからと疎んじているように思う。
それではコミュニケーション能力が減衰してしまう。

質の高い公共空間にするには、まず個人の空間(=座席)を手間暇かけて作ること。
自分の居心地がよくないと、人は他人や周囲に関心が向かない。

いいデザイン空間に入ると、人は自然とマナーを意識するものだ。
ここから、コミュニケーションの作法を学ぶことになる。

公共空間への意識はやがて街づくりにつながる。
いい街では、訪問者や住民が楽しく振舞うステージのような街づくりがなされている。

和歌山の「たま電車」に関わった経験から、
観光資源のない街にとって鉄道は街づくりの起爆剤になりうると考える。

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