「失敗学」の観点から東日本大震災を考察「未曾有と想定外─東日本大震災に学ぶ」

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未曾有と想定外─東日本大震災に学ぶ (講談社現代新書)

概要

原発の事故調査委員会委員長に就任した著者が、「失敗学」の観点から東日本大震災を考察する。

津波と未曾有

◆人は3日経つと飽きて、3年経つと忘れる。30年経つと組織が途絶え、60年経つと地域から忘れ去られる。未曾有の災害と言うが、必ずしも初めての出来事とは限らない。

◆津波対策は2つ。一つは防波堤で「対抗する」、もう一つは「備える」。そもそも昔は「いなす」ことが主眼だった。が、土木技術が進歩すると「対抗する」方へシフトする。

◆岩手・田老地区の防潮堤は古い堤防が海に向かって凸型(いなす)、新堤防がその外側に凹型(対抗する)でできていた。今回の津波では、古い防潮堤が残った。

◆ただ、対抗=過ちではない。実際田老地区では、明治の津波では83%が亡くなったが、今回は6%にとどまった。釜石の防潮堤が津波到達を6分遅らせたとの説もある。

◆問題は堤防の存在による「過信」なのだ。やはり「備えて逃げる」のが重要。小中生の生存率が99.8%だった釜石市では「とにかく逃げろ」という防災教育を徹底していた。

◆大槌町では、津波体験のない人や新住民の方が避難指示に素直に従って難を逃れた。経験が判断の邪魔をする場合があるということ。海の間近に住んでいても、逆に危険を自覚しているがゆえに避難し助かった例も多い。

◆教訓を得るためには、死者に鞭打つようだが客観的に分析する必要がある。亡くなった人はどこかで判断ミスをしている。職業倫理や情など。

◆対策の方向性としては(1)強固な堤防で対抗する(2)高所移転(3)堤防を作りつつ避難路を充実させる。ただ(1)はコスト的にも無理。致命傷を避ける減災を目指すべき。

◆災害の記憶は時間とともに消える。これは人間の性。災害の爪あとを保存するジオパークを作り、ビジュアル的に後世に伝える発想も必要だ。

原発と想定外

◆津波と違い、原発事故は備えがあれば防げた。だから、関係者の「想定外」という言い方には強い違和感を持つ。想定するのが専門家の責務だろう。

◆「想定」とは、いわば思考の範囲を恣意的に線引きすること。人はあらかじめ範囲を決めてもらえば楽なのだ。同時に、想定外のことは一切考えなくなるので、事故が起きても臨機応変な対応ができない。

◆人は都合の悪いことは見ようとしないし、聞こうとしない。予期せぬ大事故はこんな人間の特徴に起因するミスが重なる。原発にしても、過去の事故を参考に対策を練るチャンスがいくつもあったのに見過ごされた。

◆東電のバックアップ機能の脆弱さによる組織事故といえる。が、原子力ムラが共同体の利益を守るべく「絶対安全」という幻想を生み出して、チェックを怠っていたことこそ大問題。多重防護が機能しなければ事故は繰り返される。

◆事故調査は本来、原因を共有して将来の事故を防ぐというもの。それには現在の責任追及優先のシステムより、原因究明を優先しつつ必要があれば司法にバトンタッチするという手順が望ましい。

◆ある一つの技術が成熟するまでには200年前後かかる。が、原発は50年と歴史が浅いのに慎重さが足りなかった。事故分析の国際的共有は国の責務。

◆日本の社会は、制御による安全確保を過信している。万一トラブルが起きても機械を安全に向かわせるシステム(本質安全)の思想が原発にはなかった。例えば地下に原発を作り、事故が起きたら施設ごと埋めてしまうというのも一案。

◆歴史的に見れば、原発は使わざるを得ないものと思っていた。今後もある程度依存しないといけないのでは。とはいえ、現体制での運営では無理。あらゆる危険の洗い出しを。

日本で生きるということ

◆知識があると被害も思い浮かびやすい。例えば、日本は糸魚川静岡構造線で真っ二つに分かれている。ここで地震が起きると、東日本と西日本の物流や人の流れが止まるということ。第二東名やリニアなどのバックアップ幹線網が必要だと分かる。

◆八ツ場ダムの建設中止は人間の忘れっぽさの表れだ。これは1947年のカスリーン台風水害を受けて計画された治水ダム。確かに時間はかかりすぎだが、防災目的で工事を進めたのにいきなり金の無駄だからと止めるのは疑問。

◆カスリーン台風から60年、社会が「水害の記憶を失っている」のが怖い。米のカトリーナ級の台風が首都圏を襲えば、地下鉄の水没など大被害が予想されるのに。

◆大災害はいつも、人間が忘れるくらいの周期で繰り返す。災害を意識しながら社会を運営することが、すなわち日本で生きるということだ。避けて通れないのだから、被害を最小限にして、守るべきところは守るという付き合い方が必要。

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