著者
カオス研究をはじめ数理物理学の分野で世界をリードしてきた数学者が、数学に詳しくない(文系)人間にも分かるような文章で、現代数学・数学者について語ってくれます。
数学者とは
・数学者は極度に集中して大変抽象的な活動を続けたせいで、健康や性格まで変わってしまい、神経衰弱になる可能性がある。いつもぼんやりしていたり、実際的な感覚に欠けている場合がある。
・数学者は常に脳をそこそこの状態に保つために、ドラッグや深酒を楽しめない
・数学者の中には、自分の研究が絶対に世の中の役に立たないと考えたがる人がいる
・科学の世界では、名誉が人間の非常に深い感情をかきたて、著しく合理性を欠いた行動を引き起こすことが多い
・フィールズ賞の対象は40歳以下、4年に一回、4人まで。賞金はたった13,400ドル。
・数学者は大抵の科学者よりも信心深い。「数学者たちが掘り出す像は神の世界に属し、ベールをはいで永遠の美を明らかにすることが数学者の仕事」などと考える
数学の特徴
・数学の概念は人間の精神が産み出したものであり、独特の癖を反映している
・科学の研究は本質的にチームプレイだが、数学と数理物理学の研究は共同作業ではなく、師と助手のような身分階層がない
・数学(なかでも数理論理学)を駆使すれば、人間の頭脳が出会ったことがあるものの中で もっとも遠く、もっとも非人間的な対象を捉えることができる
・数学は非人間的であり、トカゲやハエの壁の登り方を見ていると、人間でない数学者のほうが人間より上手に問題を扱えそうに思える
・数学的な思考は、必ずしも言語に基づいているとは限らない(目や耳からの刺激や体の動きなどのぼんやりとした要素を伴う場合がある)
数学の範囲
・意味や目的は数学の埒外
・現代数学で取り上げられるトピックの種類が増えていくのとバランスを取るように、数学をひとつにまとめようという姿勢が強くなってきている
・数理物理学では自然そのものが研究者の手をとって、自然の力を借りられない純粋物理学者に絶対見られない数学理論の輪郭を示してくれるが、自然のヒントにはあいまいなところがある
・厳密さを追求すると形式化してみたくなるが、人間に理解できるようにしようと思うと、自然言語を使わざるを得ない
・数学を他の人達に効率よく伝えられるかどうかは、どの内容を式で表し、どの内容を言葉で表すか
・一般的な結果を証明するために推論を行っているときに、具体的な図に頼りすぎると間違う可能性がある
意識・脳
・意識は自分の心の働きに関わる概念なので定義するのが難しい
・完全な意識と呼ぶものは、決して完璧に実現されることのない極限状態
・人間の脳は構造上同時並行性が非常に高く、情報を一挙に処理する
・長期記憶になにかを蓄積するには、それなりの時間がかかる(タンパク質を合成しなければならないらしい)
(アダマールによる)数学研究の段階
1.意識的な「準備」
2.無意識的な推敲による「孵卵」(いくつかのものを組み合わせる)
3.再び意識的な思考に立ち戻る「啓示」
4.意識的な「検証」
(5. 論文の最終段階になるとマーケティング要素が入り込む)
印象に残ったトピック
・現代の科学者にとって、多くの場合、どの問が有意義でどの問が無意味かという区別ははっきりしている
・数学においてセンスが良いということは、新たな問題を解くにあたって、その問題を取り巻く数学文化の中から、使えそうな概念や結果を上手に選んで駆使することができることを意味している
・ある公理系で証明できない言明の一欄を作るようなアルゴリズムは存在しない
・証明可能な長さLの言明の証明の中でもっとも短いものの長さの最大値は、長さLの実際に計算可能な関数とは限らない
・何かを発見することは難しいが、その発見を検証することはやさしい
・興味の丈が大きい列に近い列は、興味の丈が平均よりも高くなる
オチ
・数学を研究している時にこそ、数学の本当の意味での美しさが理解できる
レアな才能
本文にも書かれていますけど、数学って人を人から遠ざけるような面がありますよね。そしてそれを遠ざかっていない人に説明するのはすごく大変そう。でもこの本は文系の私でもほとんど抵抗なく読めました。数学的能力と説明能力を併せ持つレアな人だと思いました。数式も出てきますけど、理系の読者の理解度を深めるために書かれているだけで、飛ばしても読解に支障はありません。