「世の中 銭ズラ」人銭ゲバ 上の書評・感想

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銭ゲバ 上 (幻冬舎文庫 し 20-4)

「世の中 銭ズラ」人間の虚飾を取り去った本能の叫び

醜い容姿と 貧しい家の生まれから皆からさげすまれる少年

蒲郡風太郎(がまごおり ふうたろう)

彼は貧困で大事な人を失い「金だけが全て」と考え 畜生道へとその身を落とすのだった

銭ゲバとは「金のためなら何でもする奴」と説明された本作発祥の造語です

かあちゃんは銭があったら死ななかったズラ…

貧困 

このテーマを当時の少年マンガで取り上げる場合
(大人向けの貸本 悲劇物が多い少女漫画は除く)
誰もが貧しかったから 貧しくても希望に満ち 誰もが耐えることができた
という「暖かい家族風景で語られる」事が多かったです

そうでなかったとしても 少年漫画の主人公とは成功し幸せになる存在であり
どんなに貧しくても努力し 正直な主人公は最期には幸せになれました

人間は斜に構えても 勧善懲悪が好きなのです

しかし本作で語られるのは 貧しさゆえに起業もできず 這い上がる事すら不可能な

「絶望的なまでの貧困」

それは読者の希望を徹底的に打ち破ります

例えば 父親は女を作って母子を見捨て 母親は無理がたたり死病にかかります

高価な薬があれば助かるのですが 5円でさえ払えない風太郎にそんな金は無く
泣きながら医者に助けを求めますが

金が無いため「無視され 母が死ぬ」という冒頭

困窮していても金が無ければ 誰も手も差し伸べないという残酷な現実

さらに「金」が全てだと信じるようになり金を盗んだ風太郎は金を返すように言った
唯一の味方であった近所の兄を殺してしまいます

人間としてのタブーを失い 獣のように欲望の赴くままに行動するようになった最悪の男

それが本作の主人公なのです

金さえあればなんでもできる 金さえあればなにもいらない

コレ以降の風太郎の行動は悪逆非道の一言に尽きます

金のためなら平気で人をだます 傷つける 殺す

この一言がどれだけ非道な行いを指すのかをこの本では大変詳しく教えてくれます

容貌が醜い金持ちの娘を 優しい言葉でだまし 

財産目当てで結婚した後その顔を口汚く罵り 精神的に追い詰めて殺したり

その両親であり お世話になった会社の社長さえも 利用価値が無くなったら殺します

そして自分を疑う刑事さえも…

ここまでの悪行を重ねながら 金の力で警察を押さえつけ

銭ゲバはのうのうと生き続けるのです

ここまで非道な漫画キャラは 当時存在しませんでした

吐き気を催すほどの悪人である風太郎
そんな彼を読者は嫌悪し それでも目を離すことが出来ませんでした

それは風太郎が「誰しも少なからず持つ銭への欲求」をとことん突き詰めた
確かに存在する欲望と言う名前の「自分の一部」だからです

本作は 現実に存在する 出来れば見たくない問題を真正面から取り上げ
読者に叩き付けたような作品です

社会に出て お金を稼ぐ事の大変さを知った方は一度この作品を読むことをお勧めします
そこには金で全てを手に入れようとする 浅ましい獣の姿が存在します

そしてそれは 誰の心にもある醜い欲望の縮図なのです

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