安土往還記の書評まとめ

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安土往還記 (新潮文庫)

本文より抜粋

私は彼の中に単なる武将を見るのではない。

優れた政治家を見るのでもない。

私が彼の中に見るのは、自分の選んだ仕事において、完璧さの極限に達しようとする意志である。

私はただこの素晴らしい意志をのみ、この虚空のなかに、ただ疾走しつつ発光する流星のように、ひたすら虚無をつきぬけようとする素晴らしい意志をのみ、私はあえて人間の価値と呼びたい

内容

 「私」とはジェノバ出身の「ある航海士」であり、「彼」とは「織田信長」である。本書は、書簡体小説なので、発信者が語り手になっている。流麗な文体といい、研ぎ澄まされた感性によるみごとな人物描写といい、著者の抜群の洞察力によって生み出された文学作品である。

 波瀾万丈の信長の人生は、多くの小説家や劇作家の想像力を書き立てた。実像の資料が乏しいこともあって、彼の非情・残忍さを「ある種の狂気」として描いている本も少なくない。

 しかし、本書での信長の行動原理は、「事が成る」ということであり、事の道理に適わなければ、つまり、「理に適う」のでなければ、決して事は成らぬという信念である。

「必要なのは、その知識が真実であって、それによって、実際に物事を動かしうるような知識なのだ」

 この言葉にこめられている価値観は、まさに、合理的・科学的な物の見方にほかならない。信長は、宣教師達から、事を成就させる知識を求めたと同時に、知識をつくりだすための態度・精神の厳しさにも関心をもった。

「キリシタンの僧たちが大海に乗りだすように、その同じ勇気をもって仕事に当れ」

 信長の言葉の中に、生きることの真剣さと気迫を感じる。この時代に、なぜひとり信長だけが、このような合理的な精神を身につけ、不断の克己心を維持することができたのか。

 書簡の発信者は、信長の生い立ちと自らの航海体験とを重ねあわせ、信長が価値をおいたものは、「危険と孤独と飢餓のなかから学び取った真実、すべてから装飾をはぎとった、ぎりぎり必要なもののみが力となるという真実、にほかならない」と信長に共感している。

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