日本人の様々な心性を「辺境」をキーワードに読み解く「日本辺境論」

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日本辺境論 (新潮新書)

概要

日本人の様々な心性を「辺境」をキーワードに読み解く。

日本人は辺境人である

日本人のメンタリティは“辺境”である。絶対的価値が自分たちの外部のどこかにあり、それにどう関わるべきかという視点で思考・行動する。

日本文化には立ち帰るべき原型がないため常に「日本文化とは何か」という問いに回帰。日本文化論が人気なのは、結論なく永遠に問いが続くから。

日本は他国に準拠しないと自国のアイデンティティを語れない。例えば首相が「世界2位の経済大国として米と協力する」と平気で発言する。だが、あるアーティストが創作について「オリコン2位のアーティストとして」などと言えば、お前の個性は何だ?と笑われるはず。おかしいのに気付かない。

辺境人にとっては絶対的価値への“近さ”が重要なので、自己主張より場の親密性(相手の機嫌を損ねない)を優先させることがある。アメリカからの無理な要求も、日米の親密さが国益になると信じ受け入れてしまう。

被害者意識も辺境の特徴。太平洋戦争の開戦は理念ではなく「開戦やむなしと追いつめられていた」と受動態で語られる。何者かに屈服するという感覚。

辺境の反対は中華。華夷秩序を元に日本の民族意識は始まる。長くその時代が続いたため、開国後は国際的新秩序を理解できず欧米から疎外された。

日本は世界標準にキャッチアップすることは得意だが、世界を追い抜いて自分で標準を作り出す立場になると、いきなり思考停止する。幕末期の適切な判断に比べ、日露戦争の勝利後は過ちを繰り返した。

世界標準を作れないのは辺境人の限界。正しさの保証を外部に求める、いわば弟子の発想だからだ。もう開き直って、とことん辺境でいこう。辺境だから生み出せる発想もあるはず。

辺境人の「学び」は効率がいい

私たちが国の方針について聞かれても即答できないのは、自分の問題と捉えていないから。外部に正統があり、いざとなればそこから選べると思っている。だが、借り物の思想では主体の体験が抜け落ち、深みのある議論にならない。

そんな辺境人にとって得意な状況がある。現実が既に決めらていて、そのルールに必死に追従するという場面だ。日常で類似する制度といえば師弟関係。問答無用で師匠の技を学ぶのみという状況は、遅れを自覚する辺境人にふさわしい。

師匠の吟味や習得後のメリットは、学び始める時点では判断できない(できるなら学ぶ必要がない)。利益を一旦留保することで、人は学び始めることができる。新渡部稲造は、努力と報酬の相関を元に行動するのは武士道に反すると喝破。

学びの利点は、いったん師弟関係が成立したら、弟子はあらゆる師の言動から学習できること。例えば無意味な便所掃除も「この作業にこそ何か意味があるはずだ」と弟子が勝手に推測するようになる。日本は辺境の思想から、学ぶことについて最も効率的なシステムを生み出した。

「機」の思想

日本では宗教でさえも辺境感覚。外部のどこかに霊的な正統存在があり、自国にはまだそれがもたらされていないという解釈がなされる。だから激しい宗派対立も起きないし、緊張のある宗教感覚が芽生えない。

辺境を特徴づけるのは柔道、剣道などの「道」というシステム。外部のどこかに完全体があり、今そこへ向かっているのだという状況を表す概念だ。ただ、道半ばの未熟さを前提としているので責任を先送りにでき、緊張感が生まれない。

緊張を生むため考えられたのが“機”の思想。武道では攻撃・反撃の概念を超え、相手すら一体化した「敵を作らない」境地を理想とする。受身な辺境人は、機によって先後や能動受動の対立を無意味化。一気に深みに達することができる。

日本人は機の思想を元にブリコルールを発達させた。あることについて、今は有用性が分からないが将来意味を持つであろうと先駆的に確信する能力だ。文化や資源が限られた島国では、この発想は武器になる。逆にこの能力が衰えると学びの劣化につながる。

辺境人は日本語と共に

日本語の会話は、言外の指示を伝える〝メタメッセージ“の支配力が強い。しばしば内容そのものより、話者の立場の上位・下位を決めることが優先する場合も。説得より、立場の強さで相手に意見を信じさせることが重要なのだ。

漢字は表意文字(絵)で、かなは表音文字(音)。そのため日本人は、英語圏では困難な“絵と音の並列処理”を自然に行う。この特技を昇華させたのが、絵と音の混在表現であるマンガ。世界最高の完成度は日本語の特殊性による。

日本人は、外来の概念を正統とし自国の文化を見下すことに抵抗がない。開国時は外来語を速やかに翻訳。自国の言語(概念)として消化し近代化に成功した。中国は自国文化を西洋より優位とすることにこだわり、後れを取る。

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