生物時計、概日周期のメカニズムとは

8703views折笠 隆折笠 隆

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時間の分子生物学 (講談社現代新書)

概要

生物時計、特に概日周期のメカニズムを探る。睡眠との関連性も分析。(02年初版)

なぜ生物時計が必要か

■生物時計を必要とする主な理由は
(1)時刻を知れば有利/羽化に備え敵が少ない時刻を知っておく、など
(2)季節を知る/日照時間の変化で季節を判断。交尾時期の参考に
(3)方角がわかる/渡り鳥は太陽の方角と現在時刻から飛ぶ方向を調整

■生物時計は自律的であり、環境(温度など)に依存しない。冬眠時は新陳代謝が遅くなるのに、生物時計は変わらず時を刻む。メカニズムは分かっていない。

脳の中の振子

■人間の生物時計の中枢は、脳の視交叉上核にある。約1万個の細胞で組織され、1個1個ばらしても24時間のリズムを刻む。また、隣接細胞同士で同調できる能力があり、何個かが狂っても微調整していく。

■生物時計には光が重要な影響を及ぼす。朝の日照は生物時計を(体感的に)早め、夕方の日照は逆に遅らせる。また生物時計は睡眠や体温・血圧の上下、ホルモン分泌のタイミングなどの基準になる。

■ある実験では、概日周期は人により幅があるものの、23時間53分から24時間28分までに収まった。指定時刻に起床できるかどうかの実験では、生物時計は10~15分程度の差なら区別できることが示唆されている。

生物時計の部品の発見

■諸研究により、生物時計は後天的な学習ではなく生得的なものと判明。また、生物時計の“部品”は複数の遺伝子であることが分かった。驚くべきことに、同じ役割の遺伝子同士であれば、哺乳類とハエで入れ替えても機能する。

生物時計の驚異の仕組み

■生物時計が1日を刻めるのは、24時間周期でタンパク質が増減するため。その際、遺伝子をコピーするmRNAと、増えすぎたタンパク質の生成を抑える機能(ネガティブフィードバック)が絶妙な働きをする。

具体的には
(1)あるタンパク質Xの遺伝子がmRNAにより転写開始。Xが増え始める
(2)活発なmRNAがどんどん増加。Xも増えていく
(3)だが、XはmRNAの転写活動を抑制する働きもある。
   そのため、Xが増えるとmRNAの増加が抑えられ、やがて寿命で激減
(3)mRNAがなくなると転写不能。したがってXも寿命で激減
(4)XがなくなるとmRNAを抑制するものがない。再び転写開始→1に戻る
この周期が約24時間なのだ。

研究により、体中のほとんどの細胞が独自に時を刻んでいることが分かった。各細胞はとりあえず自前の時計で動きつつ、視交叉上核の時計を使って微調整する。

不眠症のハエから睡眠遺伝子を探る

■進化の点から考えてみれば、睡眠はまずエネルギーを温存する仕組みだったのだろう。さらに高等生物では、レム睡眠(後述)など睡眠時の有効活用を編み出した。ハエはそこまで高等な睡眠はしないだろう。

■ただ、不眠のハエの個体を調べるとドーパミンが関与していた。睡眠は高次の脳機能と思われているが、高等生物もハエも同じ物質で制御しているのはおもしろい。

睡眠の謎

■「睡眠中枢」が積極的に睡眠を司ることが分かってきた。レム睡眠(急速眼球運動を伴う睡眠)は、筋肉は弛緩しているが脳の活動自体は覚醒時よりも活発だ。

■眠るのは、体の休息だけが理由ではない。目を開けたまま横になっているより、寝てしまう方がエネルギーを消費するのだ。最も重要な役割は、情報遮断による脳の休息だろう。また実験では、断眠すると免疫系がダメージを受けることが分かっている。

■実験でレム睡眠のみを妨害すると、ノンレム睡眠の時間がレム睡眠に代替される。つまりレム睡眠には必要最低量があり、ノンレム睡眠にはできない独自の目的があると考えられる。可能性としては、夢によって覚醒時に学習したことを強化する働き。夢の多くはレム睡眠時で、多ければ一晩100回くらい見る。

生物時計は睡眠をどう制御するか

■生物時計は基本的に覚醒系に作用する。徹夜の際、3~4時ごろを過ぎると逆に目が冴えることがある。朝が近づくと生物時計が覚醒信号を送るため、眠気が打ち消されるのだ。

睡眠研究の突破口

■睡眠研究の重要な対象にナルコレプシーという病気がある。眠気がひどく、日常活動中にいきなり眠ってしまう。オレキシンというペプチドホルモンの不足が原因とみられる。オレキシンは覚醒作用があり、睡眠には同物質の減少が関わっている。

■オレキシンは食欲を増加させる効果もある。食べると眠くなるのは、満腹時にオレキシンが減るため。逆に空腹時は、オレキシンが増加し覚醒する。エサを探すには覚醒が必要だから、動物の行動からみて理にかなうシステムだ。

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