街場のアメリカ論とは

6271views折笠 隆折笠 隆

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街場のアメリカ論 (文春文庫)

概要

「日本辺境論」などで知られる著者が、アメリカ論の演習を本にまとめたもの。

全11章要約

■南北戦争で混乱するアメリカは、日本開国時の政治介入において英仏に後れをとった。日仏が東アジアを制圧するのではとアメリカは警戒。開国から終戦まで日米は良好な関係ではなかった。もし南北戦争がなかったら…。「もしも」に想像力を巡らせて思考すると理解が深まる。フーコーにちなんでこれを系譜学的思考と呼ぶ。

■マクドナルドはアメリカ文化の世界的制圧を象徴している。だが、それに対抗するスローフード運動も排他性が強いナショナリズムである。そもそも食品に関わる運動は政治性を帯びる。スローフードは、貧しい南イタリアを蔑視する北イタリアの独立運動と不可分。著者はかつて玄米正食だったが、反発する友人を説教して友情を失った。排他的態度はほどほどに。

■アメリカンコミックは批評性が弱い。ゆえにアメコミ映画には米の潜在的欲望がむき出しに。例えばバットマンやスパイダーマン。懸命に活躍するが必ず誤解され、市民からバッシングを受け孤独になる。これは国際社会におけるアメリカの自己イメージでは。アメリカは世界の警察として働いてるのに、他国はまったく恩を感じない。「たまには感謝してくれ。頑張ってるんだよ」という米の不満が映画の支持に表れる。

■ヨーロッパと異なり市民社会の成熟を経ずに誕生したアメリカは、いきなり完成形から国がスタートしたという自覚がある。従って現状からの利益の増加よりも、損失をいかに少なく抑えるかに神経が注がれる。米がとったシステムは「人は誤るもの、悪事をはたらく者」という前提で(1)権力の分散(2)多数派=市民の支配。仮に統治者を誤って選んでも損失を最小限に抑えられる。この「性悪説織り込み済み」のリスクヘッジが、結果的に繁栄をもたらした。

■アメリカには戦争についての成功体験がある。戦争に勝てば敵国が仲間になることだ。英仏はもちろん日独も。かくてアメリカの基本戦略が生まれる。「戦わないより、戦って勝つほうが結局うまくいくんだ」。その呪縛から逃れられずベトナム、イラクと繰り返す。アメリカはどんな形で崩壊するのか。未来学者・トーブ氏は下層階級の不満のは捌け口となったユダヤ人が海外移住を始め、彼らが持つ経済力が国にダメージを与えるという。

■ホーム・アローンなど米の映画をみると、子供は邪悪で生意気な存在という描き方が目立つ。子供に対する考えで欧米が日本と違うのは(1)子供を無垢で神聖な存在とみなさない(2)子供を自己実現の足かせと考える場合があること。とくに「邪魔者は自力で排除すべし」という考えが普及した米では、児童虐待を罪とは考えない時期が長く続いた。ただ、一方で「子供は無垢」という幻想を作らなければ、そもそも子供は守られない存在であるという見方もできるが。

■連続殺人事件の80%はアメリカ。シリアルキラーの映画に見られるのは、母親の圧倒的な抑圧に苦しむ一方で、乖離的に女性を殺し続ける殺人鬼の姿だ。ベイトソンは、母性愛と子供嫌いという相容れぬ状況の併存で、アメリカの母子関係は分裂症的傾向が多発するとみた。強い母の抑圧に耐えきれない青年が殺人を犯す。また殺人鬼はみな個人的動機が希薄だ。具体的な個人ではなく社会的な「母親」像全体に対する復讐では。

■アメリカは身体加工に抵抗がない。理念が実感を規定するためだろう。肉体の要請(快楽)に関わりなく、理念で体を道具のように扱うというわけだ。また低所得者に極端な肥満が多い例について。これは低所得層が富裕層に対し、不摂生な肥満体を見せつけることで階級的不満のメッセージにしているのでは(「金がないから食生活管理ができねえ」)。

■アメリカは信仰心の篤い国である。特徴は具体的で組織的。西部開拓時に衰微した宗教心を回復すべく福音主義が生まれ、以降フィニーら「スター説教師」が活躍した。思想家のトクヴィルはアメリカがなぜ過剰に宗教的なのかを、政教分離により宗教が威信の担保を得たからとみる。

■アメリカでは最近、純粋な資産だけではなく、コネなど社会関係資本も資産として数値化する流れになってきた。フリーメーソンや客家など親密な結社は国家を超えたネットワークとなり、大きな影響力を持つ。とくに利益(情報)が排他的に共有されることで、求心力は高まる。

■アメリカは、弁護士の比率が高いため訴訟が多い。中には自分でコーヒーをひっくり返してマクドナルドに290万ドル賠償請求など、おかしいものがある。陪審員制度の欠点だ。市民の生活実感を反映できるとはいえ、倫理観がなく危うい。そもそも、善悪を戦わせ矛盾を解決するのがアメリカ流の危機管理構造。トラブル回避よりも、起きてから他に責任の所在を見つけて訴えるほうが得という観念になる。

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