電子書籍や出版社、コンテンツ産業の現状を分析する「出版大崩壊」

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出版大崩壊 (文春新書)

概要

光文社の元編集者が独立して電子書籍を出版。
その体験を通して、電子書籍や出版社、コンテンツ産業の現状を分析する。

2010年「電子書籍元年」の動き

■「電子書籍元年」と呼ばれた2010年は、iPadやKindleが注目を浴びたほか、出版不況を電子版で打開しようと各社が動き出した。実際、業界の現状はひどい。下がる売り上げを数でカバーしようと出版点数はバブル期の2倍に。当然1冊ごとのクオリティは下がる。リーマンショック以降の広告減や書店数の減少も大きい。
■出版社が電子書籍に対して抱く不安は大きく3つ。(1)再販制を軸とした出版流通の崩壊、(2)出版社が本の価格を決められなくなる、(3)著者が独自に出版を始めてしまう。いずれも出版社や関連企業の利益流出につながる。とくに出版社や印刷所が恐れるのは「中抜き」。著者が直接電子書籍を出版することで、マージンが稼げなくなる。

魅力的な電子書籍とは?

■電子書籍展開の方向性としては大きく(1)紙媒体をそのまま電子化(2)映像や音楽を組み込むリッチコンテンツ型(3)自費出版が挙げられる。このうち1はGoogleなどが参入するだろう。3は大手出版社のビジネス対象とはなりにくい。2が出版社の進むべき道と思えるが、独自に電子書籍を出版した村上龍氏は「出版社に(電子化の)ノウハウがない」と明言。その可能性も否定されつつある。
■そもそも紙をただ電子化するだけでは何の魅力もない。絵が動くなど本とは全く違う仕掛けやアプリ感覚のコンテンツにしなければ「紙と何が違うの」ということになる。ここを突き詰めて考えない限り、電子書籍市場は立ち上がらない。未来のメディアのありかたを同時に考える必要がある。

電子書籍の普及を阻むもの

■出版社が電子出版に乗り気でないのは、著作権クリア作業を含めた煩雑さの割に利益が少ないということ。リッチコンテンツ型の電子書籍は従来の編集者の作業範囲を越えているし、コストもかかる。なのに、電子書籍は再販制対象外のため販売価格は逆に安くなる。ビジネスにならないのだ。
■また、そもそも出版物は編集者が著者を育てるなど目に見えないコストが多い。それで中抜きされるとたまらない。
■現状、電子書籍の売り上げは紙媒体の数十分の一。あの「もしドラ」でも紙の20分の1に過ぎない。印刷製本代がないから一見コストが減りそうに見えるが、プラットフォームに払う手数料、リッチコンテンツにするための制作代がかさむ。紙ほど売れない以上、よほどの大ヒットでない限りペイしない。
■日本の電子書籍市場(売上げ)は、実はアメリカを凌ぐ。しかしそのほとんどはケータイ配信の電子コミック。この状況が変わらなければ、Kindleを中心とする一般書籍の電子化が普及する、アメリカのような市場拡大は考えにくい。

電子出版の個人利用は

■本をスキャンしPDFデータにして持ち運びやすくするのが「自炊」。図書館並みのデータが簡単に保存できるとあって便利だ。だが、法的に許されるのはあくまで私的利用のみ。グループ内でのデータ交換・販売など違法行為をすべて取り締まることは無理で、紙媒体の売り上げを減らすおそれがある。
■電子書籍の普及で自費出版が注目されている。実際AppleやAmazonでは新進作家の囲い込みを始めた。ただ、才能の発掘といっても現実にヒットする確率は数十万分の1だ。著者の立場から見ても、紙媒体より印税率は高いがコストがかかり、意外に儲からない。
■ちなみに自費出版を試してみたが、多くの本に埋没し無料でも130ダウンロードほど。ソーシャルメディアを駆使して相当うまく売らないと反響がない。漫画家の佐藤秀峰氏が独自に電子出版をしているが、これは紙での実績があるからできること。一般の自費出版進出は単なる情報洪水になり、質の高い作品が埋もれていく。

苦境が続くコンテンツ産業

■CDの市場規模はピーク時の半分。違法ファイル交換も一部にはあるが、パッケージ購入からダウンロード購入への移行(iPodの音楽配信)が主な原因だ。デジタル化による単価下落が大きい。ゲームやアニメも似たような状況。同様に電子書籍も値崩れを避けるのは難しいだろう。
■ユーザーは安く幅広いコンテンツが選べればいいので、便利なプラットフォームにはどんどんアクセスする。一方で、コンテンツ制作側の労力(時間やコスト)には当然無関心だ。したがって、コンテンツを便利に提供するプラットフォーム側(Appleなど)は儲かるが、コンテンツメーカー側は苦境が続く。

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