宇宙を織りなすもの――時間と空間の正体 上の書評・感想

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宇宙を織りなすもの――時間と空間の正体 上

本作は、初の著作である「エレガントな宇宙」が世界中で大ヒットしたブライアン・グリーンの待望の二作目です。本作は、「時間と空間」というテーマを軸として、最新の物理学の成果について非常に面白く描いている本です。
僕は、確か高校生ぐらいの時に、その「エレガントな宇宙」という本を読んだことがあるんですね。昔っから物理とかは好きだったんだけど、そういう一般向けだけど専門的な内容に踏み込むような本はそれまでそんなに読んでいなかったと思います。でも「エレガントな宇宙」がですね、もう面白すぎるほど面白かったんです。この著者はひも理論と呼ばれる分野の研究者で、「エレガントな宇宙」もひも理論の話でした。今となってはどんな内容だったのか全然思い出せないけど(また読み返したいなぁという気分になりました)、高校生だった僕にも分かるくらい易しい比喩や文章なんかを駆使して、ひも理論というとんでもなく難しい理論を実に面白く描きだした作品でした。
そのブライアン・グリーンの二作目と知って、読まないわけにはいかないですね。この本は、僕がいる本屋の返品の箱から救い出してきたものなんです。文芸書の担当者が、新刊で入ってきた本書を売場に置くこともなくさっさと返品したようで、僕は表紙を見るなり「エレガントな宇宙」の著者の作品だと分かったので、興奮しながら返品の箱から救いだしてきて、すぐ買いました。
僕はこれまでにも物理や数学を扱った様々な本を読んできました。しかしそういう本は大抵、ある一つの分野について詳しく書いているというものが多いんですね。例えば量子論なら量子論だけ、相対性理論なら相対性理論だけ、宇宙論なら宇宙論だけ、という感じです。しかし本作は、現代物理学のありとあらゆる成果や勝利や失敗が載っています。量子論や相対性理論や宇宙論は当然のこと、時間の矢について、ひも理論について、はたまたテレポーテーションやタイムマシンについての話まで出てきます。
それらの話題をまとめるのが、「空間と時間」という軸です。正直なところ、著者の編集力は凄いなと思いました。そもそもあらゆる物理のジャンルについての内容を書けるというだけでも十分すごいのに、それを「空間と時間」という軸に沿って編集をしているんです。なので本作では、例えば量子論についてもいくつかの章でバラバラに描かれることになります。「空間と時間」という流れに沿って描いているために、物理学のジャンルという縛りを超えた編集がされていて、サイエンスライターならともかく、現役の物理学者が緻密に編集されかつ一般向けに分かりやすい物理の本を書けてしまうというのが僕には驚きでした。
さてしばらく本書を、リサ・ランドールの「ワープする宇宙」とミチオ・カクの「パラレル・ワールド」という作品と比較する形で説明をしてみようと思います。本書も含めた三冊は、これまで僕が読んできた物理系の本の中でもトップクラスに面白い本なのだけど、それぞれに大分特徴が違います。大雑把なイメージを書けば、「ワープする宇宙」は理系向け、「パラレルワールド」は雑学本、「宇宙を織りなすもの」はその中間という感じになるでしょうか。
「ワープする宇宙」では、様々な物理理論の細かな部分や、難解だと思われる部分についても果敢に踏み込んでいきます。リサ・ランドールはそれらの難しい概念を、優しい文章や分かりやすい比喩で非常にイメージしやすい形で表現しているわけなんだけど、でもやはりそれは僕に物理の素養があるからだと思います。「ワープする宇宙」は、もちろん物理の素養のない人でも頑張れば読める本ですが、しかし相当に頑張らないとついていくのは大変でしょう。「ワープする宇宙」は、元々それなりの物理の素養がある人が、深いレベルについて知りたいと思った時に読むといい本です。
一方で「パラレルワールド」はそれとは真逆で、難しい部分についてはさらっと流しています。現代物理学の様々な部分について、普通の人が聞いて驚くような面白いトピックスをいろいろ取り上げながら、最新の物理学というのはこんなとんでもない世界になっているのね、こんな突拍子もない話がまかり通っているのね、というようなことが分かる本です。難しい部分には踏み込まず、悪い言い方をすれば表面をなぞったようなトピックスを選ぶことで、物理にあまり興味のない人間を振り向かせるという力を持った良書だと思います。

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