孤独のグルメの書評・感想

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孤独のグルメ (扶桑社文庫)

本書は、実在するらしい料理屋にふらりと入る、個人輸入業を営んでいる井之頭五郎(だと思う。作中では名前は出てこなかったんだけど、久住昌之によるあとがきにその名前が出てくる)が、ただ料理を食べるだけ、というマンガです。
料理屋と言っても、気取ったところは出てきます。地元の人が普通にお昼ごはんを食べているような定食屋とか、どこにでもありそうな焼肉屋、あるいはコンビニで買ったものとか野球場での食事なんてものまであります。そういう、別に名前が知れているわけでも、雑誌に載ったりするわけでもない、どの町にでもあるかもしれない隣近所の店にふらりと入り、そこで食事をする。
しかも本書は、別にその店を褒める本ではない。店の名前は出てないとはいえ、どの町の店なのかという表記はあるし、探しに行こうと思えばきっと生けてしまうんだろうし、地元の人だったらきっと、あぁあの店だな、って分かるんだろうと思います。そういう店を取り上げているにも関わらず、決して褒めるだけの話ではない。本書が、行った先の店を褒めるだけの話だったら、たぶん面白くはなかっただろう。本書は、行った先の店で感じたこと、気づいたこと、そういう感覚にかなり正直に書かれている作品で、そこが凄くいいと思いました。
主人公の井之頭五郎は、タイトル通り一人で料理屋に入る。無口で感情を表情に出すでもなく、結構ハードボイルドなタッチの人間なのに、どうも本書で描かれる時は常に腹ペコなのがなんかおかしい(笑)。
井之頭五郎は、酒は飲めない男で、とにかく食べるということにある程度のこだわりがある。でもそれは、美食家という感じではない。高級な店に行くわけでも、有名な店に行くわけでもない。作中では常に腹ペコの井之頭五郎は、とりあえずどこでもいいから入って飯を食べたいと思う。
とはいえ、どこでもいいわけではない。井之頭五郎なりに、今の気分や、店の入りやすさ、そういうものとマッチしていないとなかなか足を踏み入れられない。そういう葛藤の中で、時に諦めて適当に入った店で当たりを引いたり、これは良さそうだと思って入った店で目当てのメニューが注文出来なかったりと、色んなことが起こる。
色んなことが起こる、なんていいつつ、特別なことはまったく起こらない。本当にただ井之頭五郎が店を決めて、そこで食べて、店を出るというだけの話だ。一話がたった8ページしかなく、しかもその中である程度の物語が展開されるわけで(昔の彼女の話とか、甥っ子の野球の話とか)、だから料理を食べているページも凄く多いわけではない。それなのに、なんだか惹きこまれる。

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