前巷説百物語の書評・感想

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前巷説百物語 (角川文庫)

又市は上方(大坂の方)から江戸えと流れてきた無宿人であり、なんでもない流れ者であった。林蔵という仲間と共に流れてきたが、常に共に仕事をするというわけでもない。
ある縁で、ゑびす屋という損料屋と関わることになった。損料屋というのは基本的にもの貸しであり、布団やら衣装やらを貸す仕事である。貸し賃を請求するのではなく、貸したことによって発生した損(目に見えない汚れや疵など)の損料をもらうという発想の生業である。
ゑびす屋には裏稼業があり、それは金には換算できない損を引き受け、その損料を頂こう、というものである。簡単に言ってしまえば、どんづまりに陥った人間を金さえ払えば窮地から救ってくれる、とまあそんな稼業だ。
又市はある仕事がきっかけで、そのゑびす屋に雇われることになった。次第に又市が仕掛けの画を描くようになって行き、その仕掛けそのものもどんどんと大きくなっていき…。
というような設定です。
ではそれぞれの内容を紹介しようと思います。

「寝肥」
まさに自殺をしようとしていた美しい娼婦は、女主人を殺してしまったのだ、と打ち明けた。その娼婦に密に惚れていた又市はなんとかしてあげようとするのだが、策はない。そこに割って入ったのがゑびす屋である。八方丸く治めて見せましょう…。

「周防大蟆」
殺された兄の仇討ちをしなくてはいけない武士が依頼人である。何でもその仇討ちの相手を殺したくはない、のだそうだ。それは、兄を殺したのがその相手ではないということが分かっているからだ、という。しかし、仇討ちの命令は絶対で、逆らうことは出来ない。かといって無実の相手を殺したくはない。ないのだがしかし、頼んでもいないのに助っ人が九人も来るという。八方塞のこの状況を、馬鹿でかい蛙の仕掛けで乗り切るのだが…。

「二口女」
自分は先妻の子を殺してしまった。家人は病死だと思っていて気付いてはいないのだが、しかしそれでは自分の気持ちが収まらない。かといってお上に名乗り出ようものなら家族にまで累は及ぶ。どうしていいのか分からないのだが、この状況をどうにかして欲しい…。
そんな風にゑびす屋に依頼してきた女。このまま黙っていることが何よりも平穏であるのだが、それでは気が済まないという。しかし動くにも動きようがない。この詰まった状況を一体どうするか…。

「かみなり」
ある仕掛けによってある男を失脚させることに成功したのだが、その男が自害をしたという。又市としては人死にを出したくなかったので苦々しく思っている。
しかしどうやらその仕事の意匠返しに遭ったらしい。普段ゑびす屋の仕事を手伝っている又市らは、どこぞのゴロツキに囲まれて危うく命を取られるところだった。
五日待ってくれ。五日経ったらすべて話すし、潔く死んでやろう…。
ギリギリで又市が交わした交渉で何とか命は繋がったものの、しかし策があるわけではない。人質に取られた人間を置いてこのまま逃げるか…。

「山地乳」
絵馬の裏に名前を書くとその人間が死ぬ…。そんな噂が巷間を駆け巡っている。どうやらその噂は本当であるようだ。町方にも、絵馬の裏に名前を書いてその人間が死んでしまった。これは罪になるのだろうか、と自首してきた人間が何人も現れる始末だ。
同じタイミングでゑびす屋にもその絵馬に関わる依頼が持ち込まれ、又市らが事に当たることになった。どうやら稲荷坂の祗右衛門という通り名の人間が関わっているらしいというところまで分かっているのだが、稲荷坂の祗右衛門というのはもう死んでいる人間なのだ。ならばその名を騙って人を殺している人間がいるはずなのだが…。

「旧鼠」
どうやらまずいことになったようだ。ゑびす屋の裏稼業に関わっている人間が次々に見せしめのように殺されている。ほぼ間違いなく、稲荷坂の祗右衛門の手によるものだろう。手を打たなくてはいけないのだが、どうにも動きようがない。仲間も大半が殺されてしまった。手足を殺すことは出来るが頭を討ち取ることが出来ない。本当に、もうどうにもしようがないのだ…。

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