完全なる証明の書評・感想

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完全なる証明

本書は、とある数学の難問を解決したある天才数学者の話です。その難問とは、クレイ数学研究所というところがミレニアム問題という名で、解ければ100万ドルを与えるという懸賞金付きの問題の一つで、ポアンカレ予想と呼ばれるものでした。そしてそれを解決したのは、ロシアが生んだ天才数学者、グリゴーリー・ペレルマンです。
こういう風に書くと、『ペレルマンという数学者がどのようにしてポアンカレ予想を解決したのか』という作品だと思うでしょうが、本書はそう言った作品ではありません。ポアンカレ予想事態に触れている部分は全体の20ページ程度ですし、そもそも数学に関する話がほとんど出てきません。
じゃあどういう話なのかと言えば、数学者・ペレルマンについての本なんです。
ペレルマンという数学者は、僕が知っている数学者の中でもトップクラスの奇人です。他には、定住地を持たず世界中を放浪しながら世界中の数学者と共著論文を書いたエルディシュや、夢に数学の公式が出てくると言って、証明なしで山ほどの定理やら公式やらを残したインドのラマヌジャンとかが奇人だと思うけど、ペレルマンも凄いです。本書はなんと、ペレルマン本人へのインタビューはなしで執筆されています。何故なら現在、ペレルマンは誰とも接触を絶っているからです。自分の恩師とさえも会っていないようです。4年に一度与えられる、数学のノーベル賞と言われるフィールズ賞を拒否し(数学者にとって、フィールズ賞は最大の栄誉である)、現在は元いた研究所さえ辞め、噂ではキノコ採りをしながら生活をしていると言われる男です。そんな男がいかにして生まれ、そしてどうして今のような状況に至ったのか。それをつぶさに追って行きます。
本書の冒頭で著者は、本書の執筆に執りかかる動機として、三つの答えを追い求めていた、という話を書いている。
一つは、なぜペレルマンはポアンカレ予想を証明することが出来たのか、ということ。
二つ目は、なぜペレルマンは数学を捨て、自分がそれまで住んでいた世界までも捨ててしまったのか。
そして三つ目は、なぜペレルマンは賞金の受け取りを拒むのか、という点です。
そういう動機で本書を書き始めた著者ですが、作品の内容としては大きく二つに分けられると思います。
一つは、ペレルマンが子供時代を過ごしたロシア(ソ連)の数学教育の環境はいかなるもので、そしてその中でペレルマンはいかにして育って行ったのか。
そしてもう一つは、どういう経緯でペレルマンは数学に失望して行ったのか、です。
本書を、他の数学系の作品と大きく隔てているのは、前者であるソ連の教育環境についての記述でしょう。著者は、ペレルマンと同時代に生まれた、ペレルマンと同じくユダヤ人だという人で、いかに当時のソ連の教育環境が悪かったか、しかもユダヤ人には厳しかったか、と言ったようなことを実際に経験した人なわけです。だからこそ、普通の人では書けないような切り口で本書を書くことが出来たのだろうと思います。

完全なる証明

完全なる証明

  • マーシャ・ガッセン

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