妙なる技の乙女たちの書評・感想

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妙なる技の乙女たち (ポプラ文庫)

現在リンガ島は、宇宙開発企業がひしめく島となっている。それは、21世紀半ばに設置された軌道エレベーターの存在にある。リンガ島には宇宙開発企業が集まるようになり、一大都市を築いた。本書はそのリンガ島でくらす、働く日本人女性を主人公に据えた連作短編集です。

「天上のデザイナー」
京野歩は、インダクトリアルデザイナーとして、小さなデザイン事務所で働いている。宇宙船の便器や弁当箱なんかの設計をしている会社だ。うんざりするような日和見上司と、いけすかない社長の元で、生意気な新人という立ち位置でずっと働いてきた。
ある日社長が戯れに、歩に宇宙服のデザインコンペの話を振ってきた。社長は冗談だったのだろうけど、歩はやってやろうじゃん、と思った。調べてみると、宇宙服のデザインというのは、あまりにも洗練されていない。自分だったらこうするのに、とデザインにのめり込む歩だったが…。

「港のタクシー艇長」
歌島水央はテンダー(交通艇)と呼ばれる、いわゆる水上タクシーの艇長である。リンガ島に宇宙開発企業が集中したために陸地が足りなくなり、島の外側に次々巨大構造浮体が拡張されていった。そのため、海上タクシーが発達していったのだ。
女の艇長だからとなめられることも多いのだけど、それでも父親から教わった船を操る楽しさに身を任せて生きてきた。
その日水央は、メッツラー将軍を乗せた。未だ海賊がのさばる地域で、軍事請負企業に属する民間軍人であり、水央のリンガ島における身元引受人でもある。メッツラー将軍は水央に、もっとまともな仕事について欲しい、と願っているのだが…。

「楽園の島、売ります」
高級自然住宅開発企業を率いる女社長幡守香奈江は、進化生態学を専門とする科学者であるルクレースと共に、リンガ島におけるリゾート開発を行っている。自然が少ない、と嘆く富裕層の多いリンガ島の現状に、初めは不可思議なものを感じていた香奈江だったが、インドネシアの熱帯雨林のほとんどが環境保護区にしていされていることを知って納得した。そして香奈江は、ルクレースと共に、法の抜け穴をうまくかいくぐって、リンガ島周辺でのリゾート開発に成功している。
しかし、先ごろ契約を済ませたとある件が暗礁に乗り上げている。当初は開発に賛同していたはずの原住民族が、突如反対し始めたのだ。会社の信頼にも関わるのでここは引けない香奈江なのだが…。

「セハット・デイケア保育日誌」
阪奈麻子は、リンガ島内の保育園で保育士として働いている。経営者である姉妹は、警察のお世話になったことのあるような人間らしく、資格も何もない麻子でも雇ってもらえているのだ。
ある日お昼寝から起きると、子供が一人増えていた。見慣れない顔の子は、レオンと名乗った。親が探しに来るわけでもなく、結局そのまま保育園で預かることになった。
このままリンガ島で保育士として生きていていいのか若干悩んでいる麻子が、何故かレオンを引きとって育てることになるのだが…。

「Life me to the Moon」
犬井麦穂は、発車寸前の軌道エレベーターのケージに飛び乗った。年配のアテンダントに誰何され、欠員が出たアテンダントの代わりに乗員したのだ、と説明する。アテンダントとしての仕事は、勘と経験を頼りに、なんとかこなしていけた。
宇宙への憧れは、人一倍大きかった。軌道エレベーターが出来、誰でも宇宙に行けるようになったとはいえ、まだまだ気軽に行けるというほどでもない。憧れだけでどうにかなる場所でないこともわかっている。それでも麦穂は、宇宙に行ってみたかった…。

「あなたに捧げる、この腕を」
鹿沼里径は、アーマートの創始者だと呼ばれている。大理石や花崗岩などの、男の腕力でも加工の難しい素材を、機械的倍力装置(ロボットハンド)を使って加工する芸術家だ。そのやり方には、方方から賛否が集まってくる。日本で活動を続けることに限界を感じ、リンガ島にやってきた。
そんなある日、先輩である京野歩から紹介され、サンジャという男と会った。政府の宇宙開発部門に属する役人だそうだ。そのサンジャから、宇宙船の船首像を作ってもらえないか、という依頼をもらうのだが…。

「the Lifestyles Of Human-beings At Space」
歌島美旗は、リンガ島に軌道エレベーターを建造した世界的企業・CANTECで事務仕事をしている。働いて分かったことは、いくら世界的企業だといえども、事務仕事は退屈だ、ということだ。
しかしある日美旗の元に、なんとCANTECのCEOから連絡があり、変わったプロジェクトに組み込まれることになった。それは、宇宙飛行士の食生活を改善する、という目的のプロジェクトだった。
しかしそこで美旗は、もっと根本的な疑問にぶつかる。何故宇宙での食事は、すべて地球から持っていかなくてはいけないのか?

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