将棋の子の書評・感想

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将棋の子 (講談社文庫)

著者は本書で、そうした歴史の陰に埋もれてしまう、奨励会という仕組みから放り出されてしまった多くの若者を本書で描きました。
本書にはメインとなる一人の男の存在があります。
成田英二。著者はこの成田と浅からぬ因縁があります。
著者が「将棋世界」の編集長になって10年目。そろそろ辞めようという決意を固めていた頃、一通のメモ書きが目に留まった。棋士や関係者の住所や連作先が変更された時に総務課から配られる事務通信のメモ書きであった。
そこにはこうあった。

連絡先変更のお知らせ。
成田英二四段。
札幌市白石区白石2条1丁目
白石将棋センター気付

このメモが、著者を北海道へと向かわせることになった。
住所が将棋センター気付ということは、恐らく何かまずい事情を抱えているに違いない。そう思うと、唐突に成田に会いたくなった。
本書は基本的に、成田に会いに北海道へ向かい、成田と再会し、多くの話をし、別れるという大きな流れがあります。そして著者はその流れの中に、多くの奨励会員の話を挿入していくことになります。
たった一度の凡ミスですべてを失い、気力さえも失い、池袋の水商売の世界に飛び込んで行った秋山太郎。
棋士への道を諦め、将棋連盟の事務員として長く勤め上げた関口勝男。
将棋の世界では、圧倒的な強さを誇った羽生の他、佐藤康光、小倉久史、木下浩一など、それまでの将棋のスタイルをすべて一新させてしまった昭和57年組と呼ばれる存在があるのだが、その集団にモロに飲み込まれ、一時はトップを走っていたものの、あっさりと57年組に追い抜かれそのまま消えてしまった昭和56年組の米谷和典。米谷はその後司法書士の試験に一発で合格する。
年齢制限により奨励会を退会した加藤昌彦は、自暴自棄になり喧嘩ばかりしていた頃に俳優を目指すことを決意する。赤井英和の付き人をやりながら修業をするも、最後には将棋ライターになった。
第一回世界将棋選手権の優勝者である、ブラジル代表の江越克将も、かつては奨励会にいた。師匠に世界を放浪してこいと言われて本当にそれを実行に移した江越は、今ではブラジルで結婚しており、アマゾンの奥地に住む孤児が安全に暮らせる施設を作るボランティア活動をしている。
成田の生い立ちや両親との関係、著者との関係や奨励会を去った後の暮らしなんかをメインで描きながら、様々な形で将棋と区切りをつけて行った多くの若者たちの生き様を描いていく。それはまさに、将棋という残酷なスポーツを間近で見続けてきた男にしか描けないことだ。人生を掛けて将棋を指し、失意の内に敗れ去った多くの若者のその後を描いた作品です。

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