トゥルー・ストーリーズの書評・感想

2246views黒夜行黒夜行

このエントリーをはてなブックマークに追加
トゥルー・ストーリーズ (新潮文庫)

本作は、ポール・オースターのエッセイみたいな作品です。エッセイというより、なんというかなぁ、自伝みたいなものにどっちかっていうと近いと思うんだけど、自分がこれまで経験してきたことについて書いているような文章です
本作は、原書となる本がアメリカで出版されているわけではありません。ポール・オースターは常々、アメリカにおけるエッセイの出版についてかなり懐疑的な意見を持っているようで、だからこの作品は、ポール・オ-スター自身が、日本でエッセイを出すならこういう風にして欲しいと目次まで組んだものになっています。文章自体は様々な媒体に書いてきたものを集めているんでしょうけど、作品としては日本オリジナルのものになっています。
内容は大きく三つに分けることが出来ます。
一つは、これが本作でもっともウェイトを占めるものになるのだけど、「その日暮らし」と題された。ポール・オースターのこれまでの生活の軌跡を追った内容のエッセイです。これはまた、貧乏との戦いの記録でもあります。
ポール・オースターはとにかく、普通のやり方で生活を支えるということをついにしたことのない人間です。いや、正確に言えば、人生の内7ヶ月を除いて、ということになります。ポール・オースターは人生の中で七ヶ月だけ、ちゃんと毎月給料が入ってくるようなハーフタイムの仕事に就きます。しかしそれ以外の作家になるまでのすべての時期は、綱渡りのようなギリギリの生活をやりくりしていたわけです。
とにかくポール・オースターの人生は、常に貧乏の隣り合わせでした。いつどんな時も金がなく、お金を手にするためにどうしたらいいのか、ということで常に追い立てられているような人生でした。船に乗ったり、山小屋の管理人をやったり、あるいは自ら考案したゲームで一山あてようと目論んだりしながら、なんとか日々を乗り越えてきたその記録が綴られています。
とにかくすごいのがそのやった仕事の数々で、翻訳の仕事をメインにやっていたのだけど、それ以外にも数々の奇妙な仕事に手を染めていました。ある婦人と一ヶ月メキシコに行く、なんていうよくわからない仕事もあったし、骨董のカタログの文章を考えるなんていう仕事もありました。また翻訳に関する仕事でも様々なトラブルや珍事があり、それらに打ち克ちながらポール・オースターは生活を続けていたわけです。ほとんど金がない時期に結婚したりと、なかなか無茶苦茶なことをやっていますが、女性の方もよくそれで結婚する気になったなぁ、と思ったりします。ポール・オースターという作家がどんな人生を歩んできたのか知ることの出来る内容になっています。
二つ目が、偶然に関する話です。そのメインとなるのは、「赤いノートブック」と題されたエッセイですが、それ以外にも偶然を扱った内容のものはたくさんあります。
とにかくポール・オースターというのは、これは本当の話なんだろうか、と読んでる人間が疑ってしまうほど、様々に奇妙な偶然によって彩られている人生を送っています。その大半は些細なものだし、もちろん自分の身に起こったのではない偶然も含まれているわけですけど、どれを読んでもそんなことが本当に起こりうるんだろうか、という話ばかりです。
しかしまあ嘘を書いても仕方がないので本当の話なんでしょう。どういう偶然が彼に訪れたのか、それは是非本作を読んで欲しいわけですが、本作を読んで感じたことが二つあります。
それは、

・僕らの人生は偶然に満ち溢れているのだけど、それに案外気づかないだけなのだ
・より多くの人に会えば会うほど、偶然に出会う可能性は増える

ということです。
ポール・オースターの人生は、確かに僕らの人生よりもより多くの偶然によって彩られているように思えます。しかしそれによって、ポール・オースターだけが選ばれた人間なのだ、と考えるのも早計のような気がします。
むしろ、僕たちは日々様々な偶然にさらされているのだけど、それに気づいていないだけなのだ、と解釈する方が無難であるように思います。
たぶん偶然というのは日常にありふれているのだろうと思います。森博嗣は、自分の足元に一枚の葉っぱが落ちてくることだって偶然の産物だ、みたいなことをどこかで書いていたような気がしますが、そうだろうと思います。つまり、それを偶然だと感じるかどうかという、受け手側の問題なのだろうな、と思います。
あと、これは当然の結論だと思いますが、より多くの人と関われば関わるほど、偶然というのは目に見えて起こりやすくなるのだろうな、と思いました。ポール・オースターは、本作を読む限りでも、かなり広範囲の人間と係わり合いがあります。もちろん継続される人間関係もあれば、ピリオドを打たれて終わってしまう人間関係もあるのだけど、その多様な人間関係の渦の中では、起こり得ないことでも十分起こりうるのだなという感じがしました

関連まとめ

本のまとめカテゴリー


コメントを書く