世界の地域格差の原因は人種の優劣ではなく、自然環境の違い。偶然にすぎなかった「銃・病原菌・鉄」

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文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)

概要

富や権力など、世界の様々な地域格差がどのようにして生じたかを考察。その主要因は人種の知的優劣ではなく、動植物の偏在や地形など環境の差異であることを明らかにする。

著者はカリフォルニア大学の教授で生理学、進化生物学、生物地理が専門。

勝者と敗者を巡る謎

【1万3000年前のスタートライン】
人類は約700万年前にアフリカで誕生。ユーラシア大陸には100~50万年前に移動、現在のヨーロッパでは、先住のネアンデルタール人を滅ぼした。オセアニアには紀元前3~4万年前ごろ、北南米にはアラスカ経由で紀元前1~2万年に到達した。

【平和の民と戦う民の分かれ道】
1835年、技術や戦闘に優れるマオリ族が狩猟採集民のモリオリ族を滅ぼした。文化レベルに差がある両者の祖先は、実は同じポリネシア人。経済や社会構成、武器の進化に差がついたのは、住む島の環境要因(海洋資源や人口密度など)と考えられる。

【スペイン人とインカ帝国の激突】
1532年、スペインのピサロがインカ王アタワルパを捕捉した。168人の部下で8万のインカを下した理由は1…圧倒的な軍事力(騎馬、鉄製の武器)、2…インカが天然痘で混乱状態、3…政治機構と造船技術に優れる、4…インカ側の分析力不足(文字がない)。

征服に必要な要因として、技術や政治機構、疫病に対する免疫などが浮かび上がる。
だが、なぜインカではなくヨーロッパがそれを持ちえたのか?

食料生産にまつわる謎

【食料生産と征服戦争】
征服する手段を手に入れるまでの、因果連鎖をまとめると以下のようになる。

狩猟採集→カロリーが増えれば養える人口が増える→農耕、牧畜に移行→定住→人口密度が増える→余剰食料が貯蔵できる→分業化する余裕ができる→政治機構の発達、技術革新、文字の発明などが可能に

加えて、家畜との共生から疫病が発生。同時に、それに対する免疫を身につけていく。

【持てる者と持たざる者の歴史】
独自に食料生産が始まったのは、メソポタミアや中国など数か所に過ぎない。多くは文化の伝播や他民族の侵略により広がっていった。生産開始が早ければ早いほど、のちの技術革新においてアドバンテージとなる。持てる者と持たざる者の差はここから生まれる。

【農耕を始めた人と始めなかった人】
狩猟採集は意外に豊かで、単純に狩猟→農耕への移行がベターではなかった。それでも大勢が農耕を選択した要因は、動物資源の減少や農耕技術の発達、人口増加の圧力による食料生産の促進など。また、食糧生産者が狩猟採集者を人口で圧倒していたこともある。

【毒のないアーモンドの作り方】
遺伝学のない当時、栽培はいかにして進んだか。まず野生種から形質のいい個体(大きい、味がいい、など)を選択。得られた種子で収穫や選択を繰り返すことで、より食料生産に適した栽培種に純化されたのだろう。

【リンゴのせいか、インディアンのせいか】
食料生産システムが遅れた地域を検証してみると、その理由は住民の知識不足ではなく、適した動植物が周囲に乏しかったという環境要因による制約だと分かる。実際、他から生産性の高い作物が伝わると、彼らはすぐに集約的生産を実現している。

【なぜシマウマは家畜にならなかったのか】
家畜化に向いた動物が集中的に分布したユーラシア大陸は、文明の先進を可能にした。後進地域の発生は食料と同様、住民の問題ではなく生物学的制約(家畜に適した動物が近くにいない)によるものである。アフリカの人がシマウマを家畜化しなかったのは、家畜化できない動物だから。

【大地の広がる方向と住民の運命】
食料生産の伝播速度は、ユーラシアで速く、南北アメリカやアフリカでは遅かった。緯度が同じ地域は環境が似ているので、東西方向の伝播が南北方向よりもスムーズなためだ。また農業不適な地(砂漠など)が伝播の障壁になることも。地形が後の運命を分けたことになる。

銃・病原菌・鉄の謎

【家畜がくれた死の贈り物】
家畜由来の病原菌が世界の歴史に与えた影響は大きい。アメリカ先住民滅亡の主要因は、戦死ではなく感染症による病死。家畜が少ない新大陸では免疫がなかったのだ。武器や政治的先進性だけでは、旧大陸が新大陸を速やかに滅ぼした理由を説明できない。

※下巻に続く

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