フィッシュストーリーの書評・感想

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フィッシュストーリー (新潮文庫)

「動物園のエンジン」
真夜中の動物園に、僕と河原崎さんはいた。シンリンオオカミの檻の前でねそべっているスーツ姿の男を見ながら、河原崎さんは駄洒落を駆使して、彼を前市長の殺害犯にしたてあげようとやっきになっている。
真夜中の動物園に入れてくれた恩田という職員によれば、永沢さんというその寝そべったスーツ姿の男は、「動物園のエンジン」なのだそうだ。永沢さんが動物園にいるだけで、どことなく動物たちが活気付く、というのだ。そんなことがあるものだろうか、と思う。
永沢さんは、夜は動物園で寝そべり、朝になるとマンション建設の反対運動の現場に立っているらしい。河原崎さんの無茶苦茶な推理に引きずられるようにして、僕らは河原崎さんが一体何をしているのか考え始める…。

「サクリファイス」
本業は空き巣で、副業で探偵まがいのことをやっている黒澤は、小暮村という小さな村を目指して車を走らせていた。
アクシデントはあったもののなんとか彼は小暮村に辿り着いた。彼の目的は、山田という男を捜すことだった。小暮村にいるかもしれない、という情報を、本業の技術を駆使して手に入れたのだ。
その村は、産業もなく、農業も自分達が食べる分だけという感じで、寂れている印象であった。自称芸術家だという柿本という男と会い様々に話を聞いたのだが、この村にはどうもおかしな風習が残っているという。
それは、「こもり様」という、生け贄を差し出す習慣である。最も、かつては実際生け贄として捧げられていたのだが、今では形だけ洞窟にしばらく入っているだけのことである。
山田を捜しにきただけの自分には関係ない。関係ないが、なんとなく彼はその「こもり様」の風習についてあれこれ調べているのだった。

「フィッシュストーリー」
非常に説明し難い内容である。
ただ、ある曲が、物語に関わっている。
その曲は、「僕の孤独が魚だとしたら」で始まる、ある日本人作家の遺作をアレンジした歌詞で、しかも途中の間奏に、1分近くの無音があるということで、一部のファンの間で話題になったアルバムの一曲だった。あるマイナーなバンドの、マイナーなアルバムだったが。
そしてまた、ある一人の男が関わっている。その男は、父親から「正義の味方」になるように育てられた。大事なのは職業や肩書きではなくて、準備だ、ということで、強い肉体と、動じない心を身に付ける教育を父親から受けた、そんな男である。
「なあ、この曲はちゃんと誰かに届いているのかよ?」と叫ぶ魂の孤独と、ひっそりと佇むようにして存在する正義の味方が、時空を超えて織り成す物語。

「ポテチ」
今から飛び降りて死ぬ、と電話越しに叫ぶ女に、「キリンに乗って、そっち行くよ」と言って自殺を食い止めた男。
それが今では同棲する関係になっているのだから、不思議なものだ。女の方は大西、男の方は今村である。今村はなんと、ピタゴラスの定理や引力を自分で発見してしまうような男である。大抵、誰かに先を越されているのだけど。
今村は空き巣であり、今はプロ野球選手の尾崎の部屋にいる。そしてそこには何故か、今村の彼女ではあるが空き巣ではないはずの大西もいたりする。
電話が鳴った。見知らぬ女性が尾崎に助けを求めているようだ。
あの時と同じだ、と今村は思ったのか、助けに行こう、という。空き巣はいいのか、と大西は思ったが、しかたない、ついていくことにしたのだ。

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