刑務所図書館の人びとの書評・感想

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刑務所図書館の人びと―ハーバードを出て司書になった男の日記

本書は、ハーバードを卒業した後、刑務所内の司書になった男の、日常を描いたノンフィクションです。
著者はユダヤ人で、僕はちょっと詳しくないんですけど、ユダヤ人っていうのはどうも、医者とか弁護士とかにならないと肩身が狭いんだそうです(ホントかなぁ)。まあともかく、子供の頃はユダヤの経典について研究するほど熱心だったアヴィは、しかしやがて(何があったのかはっきりとはわからないけど)次第にユダヤ教から離れ、今ではユダヤ教の教えをまったく守らない生活をしている。そんなアヴィだからこそ、ユダヤ人のコミュニティからもはじかれているような状況で、アヴィは生活のために、新聞社で死亡記事を書き続けていた。
ある日見つけた求人が、刑務所の司書だった。司書の資格を持っているわけではなかったが、健康保険に入ることが出来るという点に強く惹かれて応募することにした。そしてアヴィは採用された。
刑務所内の図書館(本書では図書室と呼んでいるけれども)は、なかなか特殊な環境だ。それは、非常に危険だ、という風に言ってもいい。あらゆる囚人が自由に出入り出来る。しかも、本は頭の使いようによっては様々な道具や武器に作り変えることが出来る。鉛筆一本でさえも、管理を厳重にしなくてはいけない。
また、図書館で禁制品のやり取りが行われたりする。あるいは、本のあいだに手紙を挟んで文通のようなことをしたりもする。そういう部分に目を配り、時にはどうしようもなく目溢しすることもある。
受刑者との関わり方も難しい。必要以上に親しくなるわけにはいかないし、もちろん特定の受刑者だけに便宜を図るようになってもいけない。しかし、やはりそれぞれ個性のある受刑者たちと、個人的な関係というのが出来ていく。特に、受験者の中で図書館の運営を手伝ってくれるスタッフや、アヴィがやっている文章講座の生徒たちなんかは、他の受刑者たちよりも関わり合いが深くなっていく。
その中でも、特別深く関わることになる受刑者というのが出てくる。その一番の存在が、ジェシカだろう。
ジェシカは、アヴィの文章講座の生徒だった。だった、というのは、途中でアヴィがジェシカを文章講座から追い出したからだ。
文章講座を行う教室からは、グラウンドが見える。ジェシカは文章講座のあいだ、ほとんど外ばかりを見ている。それは、他の受講者たちにとっても良くない影響を与える。そういう理由で、アヴィはジェシカを辞めさせた。するとジェシカは、それまで結構頻繁にやってきていた図書館にも来なくなってしまった。
ジェシカが外を眺めていた理由を知るのは、大分後になってからだ。ジェシカは刑務所のグラウンドに、ある人物を見つけていた。刑務所内は、基本的に外が見える作りになっていない。彼女は、その人物を見るために、文章講座を取っていたのだ。
それはアヴィにとっては、胸の痛むような話だった。それで、どうにかジェシカと連絡を取り、条件付きで文章講座に戻ってくるように伝えた。
それからも、ジェシカとは深く関わることになる。時には、刑務所のスタッフとしてのモラルを逸脱することもあった。何が正解なのか、アヴィにもわかっているわけではない。でも、目の前にいるジェシカの力になってあげたい、という気持ちを抑えることが出来なくなってしまっているのは確かだ。
他にも、様々な受刑者がいる。図書館の仕事を手伝ってくれるスタッフで、法律関係のことに滅法詳しい者。自らの生い立ちを見つめ、ひたすらに小説を書き続けるもの。テレビに出られるようなシェフになることを目指す者。アヴィは彼らと向き合い、時に刑務所の司書として、時に刑務所の一スタッフとして、そして時に友達のような間柄で、彼らの現実の手助けをする。
時には刑務官とやりあうこともある。図書館の司書という立場は、どうしても刑務官より劣る。しかし司書にも、守るべき立場や環境がある。アヴィは、面倒なことになることを承知の上で、時折刑務官とやりあう。そうやって、少しずつ受刑者たちの信頼を得ていく。
また時折、アヴィ自身の生い立ちなんかが語られる。大学時代の話、祖母の話などなど。アヴィ自身も、割り切れない様々な思いを抱えながら、図書館の司書という仕事を続けている。

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