TPP参加で被る日本のリスクと戦略的経済外交の重要性

3638views折笠 隆折笠 隆

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TPP亡国論 (集英社新書)

概要

TPP参加で被る日本のリスクを指摘し、国やメディアに欠けている戦略的経済外交の重要性を訴える。著者は経産省勤務を経て京都大学助教に。専門は経済ナショナリズム。

TPPの謎を解く

◆TPPとは、環太平洋連携協定のこと。
 ・06年にシンガポールなど4カ国でスタート
 ・10年にアメリカなど5カ国が加盟交渉に加わる
 ・物品貿易の関税は原則として全品目撤廃。知的財産や人の移動も対象

ちなみに
 ・WTO/世界貿易機関。自由貿易の推進をめざす。150か国以上が加盟
 ・FTA/2国間または複数国間だけで関税ルールを定める

◆内閣府が示すTPP加入の根拠がひどすぎる。
 1…アジアの成長市場を取り込む/ウソ。日米だけで、参加国総GDPの9割を占める
 2…開国を対外的にアピール/ウソ。関税率は米韓に比べ低く、鎖国状態ではない
 3…地域経済の枠組みに取り残される/ウソ。中韓が参加しなければ意味なし

加えて、日本以外はみな輸出依存国。日本製品を買ってくれない。 

◆では、なぜ交渉参加を急いだか。横浜APECで何か成果が欲しかったからだろう。

世界の構造変化を読む

◆リーマン・ショックの原因は、世界的な経済収支の不均衡。
 ・輸出超過にもかかわらず、アメリカは住宅バブルで消費が過熱→崩壊
 ・一方アジアは、通貨危機の教訓から輸出を増やして内需を抑え、貿易黒字化
 ・特に中国は元を安く抑えたまま輸出を増やし成長

アンバランスの是正が必須というのは、国際的な共通認識。

◆で、アメリカは輸出を増やすべく、TPPを利用して日本を取り込む。
 →ドル安で日本からアメリカに工場が移転し、雇用確保
 →日本の農産物市場も奪える

一方の日本は農業が壊滅。先述の理由で輸出も伸びず、いいことなし。

◆いまや関税は障壁にならない。武器は「通貨」だ。
 ・韓国の競争力の強さも、実はウォン安円高にある

◆経産省のシナリオが楽観的過ぎる。
 →まず日本がTPPに参加すれば、EUが過敏に反応するはず
 →そこで日本がEUとFTA交渉に持ち込み、有利な条件を結ぶ
 →韓国はEU市場で日本に対する優位性を失う
 →輸出で一気に日本が成長!

ありえない。結論ありきの空論だ。

貿易の意味を問い直す

◆貿易黒字を維持すべし、という強迫観念を捨てよ。
 ・黒字イコール成長ではない
 ・日本は黒字を減らし、世界の経済収支不均衡の改善に貢献せよ

◆景気回復にはまずデフレの脱却が最優先。
 ・需要を作る必要があるが、民間に余裕がない。だから政府の公共投資が必要

◆デフレの時は、貿易自由化はやってはいけない。
 ・安価な製品の流入が国内の雇用を悪化させ、賃金がさらに下がる
 ・農業構造改革の必要性を否定はしない。だが順番が違う。デフレ脱却が先だ

◆世界恐慌の原因は保護主義ではない。
 ・経済成長が貿易拡大を促すのは正しい
 ・だが貿易拡大は必ずしも経済成長につながらない

輸出主導の成長を疑う

◆輸出が成長すれば国民は豊かになる、と言うのは幻想。
 ・国際競争によるコスト削減のため、企業が儲かっても賃金が上がらない
 ・法人税減税も効果なし。企業が貯め込むだけ

◆公共投資を行えば、デフレを阻止しつつ経済収支の不均衡を是正できる。
 ・公共投資でまず需給ギャップを減らそう。投資や消費が増えて内需拡大へ
 ・一時的に財政赤字は増えるが、最終的には景気回復に向かう

◆内需拡大が内向きというのは誤解。むしろ外向きの戦略。
 ・対日輸出が増えるので、周辺国は日本への依存度を高めるはず

グローバル化した世界で戦略的に考える

◆貿易は「互恵的」ではない。市場構造を自国に有利なよう操作する戦略が必要だ。
 ・尖閣の事件で、中国は訪日自粛など圧力をかけ、日本は困った
 ・中国が冷静に対日貿易の力関係を構築していたということ

◆日本の農業は生産額では世界5位。だが、戦略的観点から見ると危機的状況。
 ・アメリカに食糧を依存する日本は、禁輸という大きなリスクを負う
 ・日本の野菜の自給率は8割。だが、その種子はアメリカから輸入。主導権がない
 ・水資源の枯渇が、農業国の輸出制限を促す危険性がある

◆アメリカは競争力のある農業と金融を活用し、TPPで日本を骨抜きにする。
 →水の希少化と金融緩和により、食糧価格の上昇が予想される
 →そこで、日本をアメリカ農業に依存するような構造にしておけば…
 →日本から富が還流し、アメリカの市場は活況を呈する

真の開国を願う

◆「開国」というフレーズは、誤解がある。
 ・明治維新とは、鎖国から開国ではなく、避戦から攘夷への転換だった
 ・一方、TPPの「開国」は、外圧に屈して順応した避戦型の政策

◆TPP支持の裏には、対米依存の安全保障を維持したいという潜在的願望が見える
 ・今回の騒動は、独立心のない国民の姿を改めて浮き彫りにした

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