原発事故問題、今後の課題は「官邸から見た原発事故の真実」

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官邸から見た原発事故の真実 これから始まる真の危機 (光文社新書)

概要

著者は原子力工学の専門家として内閣官房参与に就任し、原発事故対策を担当。その体験を振り返りながら、今後連鎖的に起こりうる原発事故のリスクを指摘する。

官邸から見た原発事故の真実

・現在の最大のリスクは、政府の「根拠のない楽観的空気」。例えば“冷温停止状態”という表現はその一端だ。空虚な楽観論は国民の信頼を喪失させる。それがどれだけ今後の行政に支障をきたすか、真剣に考えているのか。

・一時は首都圏3000万人避難も覚悟したほどの深刻な事故なのに。一方、米仏は日本以上に状況を把握していた。米が避難勧告を原発80km以上に広げなかったのは、首都圏の日本人がパニックを起こすことを懸念したため。

・政府は、もはや国民が信頼していないことを自覚せよ。その回復のためには、1…身を正す=原子力行政の徹底的な改革、2…長期的な展望を示す 必要がある。

・原発の究極課題は、高レベル放射性廃棄物。もはや技術の範疇ではなく、国民の了解を得られるかどうかの問題だ。つまり、政府に対する国民の信頼がなければ、今後の原子力施策は頓挫する。

政府が答えるべき「国民の7つの疑問」

【1 原始力発電所の安全性】
・技術の議論ばかりでは不完全。むしろ「人的・組織的・制度的・文化的な」安全性の追求が必要だ。例えば以下の例は技術では解決しない。
 1…過去の事故も人的エラーが原因/人は想定外の行動をするという認識の欠如
 2…低確率事故への対策を怠る/経済性優先の思想
 3…SPEEDIの活用ができなかった/縦割り行政の弊害

・そして最大の問題が「規制」。推進派と規制派が同じ組織にいるのは決定的な欠陥だ。国民の強い不信にもつながる。

・財界のリーダーが原発再稼働を求める気持ちはわかる。だが、その経済優先の思想こそが原発事故を起こしたのだ。彼らはその深刻さを今一度考えるべき。

・原発再稼働のためには、暫定的にはストレステストと原子力安全庁の設置が必須。本質的には国民の信頼が必要だ。まず政府や電力会社が国民感情を理解すること。

・最高水準の安全性を目指すには、危機対応型の人材育成や、縦割り行政・原子力ムラの特殊性を解体するなど徹底的な改革が必要。それでもまだ入口に過ぎないが。

【2 使用済み燃料の長期保管】
・使用済み燃料プールが危険なのは、状況によってはむき出しの炉心となるから。現状の福島でも、再臨界の危険は小さいが、地震と津波によるリスクは残る。燃料プールの危険性がわかってしまったため、今後はテロ対策も重視する必要がある。

・プール貯蔵容量の問題がある。各原発のプール貯蔵が限界に近づいているのだ。もし満杯になったら原発を停止せざるを得ない。

【3 放射性廃棄物の最終処分】
・例えば、汚染水浄化によって高濃度放射性廃棄物が発生する。地中処分、地層処分など方策はあるが、課題は安全審査と処分場選定だ。

・特に処分場の問題はNIMBY(自分の裏庭には捨てるな)に関わるため、中間貯蔵扱いにして先送りするしかない状況だ。また、政府が示す廃炉の工程も楽観的すぎる。

【4 核燃料サイクルの実現性】
・技術的な問題もあるが、行政的な不透明性が国民の不信を招いた。また、仮に技術的に実現しても、放射性廃棄物処理の問題に突き当たる。

【5 環境中放射能の長期的影響】
・政府は被曝と健康被害を最小限にする責任がある。その一環が除染だが、汚染度の発生ほか、除染範囲も限られるなどの課題が残る。

・それでも除染をするのは、悪影響を最小化する必要と、住民の安心確保のため。最もまずいのは、経済優先で除染をセーブしようとすること。リスク回避の施策はコストを考慮してはいけない。

【6 社会心理的な影響】
・行政は目に見えない被害(精神的な被害)を軽視しすぎる。チェルノブイリでも精神被害が最大の問題だったと言われている。

・国民の社会心理的リスクは、政府との温度差が広がるほど大きくなる(年金記録の喪失など)。行政はまず、不安を抱えて生きる被災者に共感し、理解するよう努力を。

【7 原子力発電のコスト】
・高レベル放射性廃棄物の処理費は、手段が未定のため原発のコストに算入されていない。数値化が難しい社会心理的コストも同様。目に見えないコストを評価できるのが成熟した政府と言えよう。

新たなエネルギー社会と参加型民主主義

・ビジョンは「段階的に依存を少なくして、将来的に原発に依存しない社会を目指す」。というより、新設できない現状では2050年ごろに原発に“依存できない”社会になる。エネルギー源の現実的な選択肢を広げるのが政府の義務。国民に選択を問う必要もある。

・私が提案した、自然エネルギーに関するオープン懇談会では、政府と国民の対話の新たな形を提示できたと思う。このような動きをきっかけに、参加型民主主義の可能性を広げたい。

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