森林理想郷とは

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森林理想郷を求めて―美しく小さなまちへ (中公新書)

森林理想郷とは

 「森林理想郷」という語をgoogleで検索するとヒット件数は1万件を割る。更に最初の50件のうち半数は本書の関連のページであった。実は何のバロメータにもなっていないが、「森林理想郷」というのは意外と耳慣れない言葉ではないだろうか。「未来都市」と異なり、「森林理想郷」としてイメージされる絵はそう多くない。ヨーロッパの、あるいは日本の山あいにひっそりと佇む・・・そんなところではないか。地球上の人口が増大した現在、果たして人類の居住と森林の共存は可能なのだろうか。

森と文明

 本書は実在の都市を例にとり、それを元に筆者の考える森林理想郷を具体的にしていこうとしている。章構成は非常に分かりやすく、歴史上の都市に見る森林との共存、海外における森林都市、日本に見る森林化社会、結論としての森林理想郷、という流れである。筆者は、歴史上人が多く集まることで都市(文明)が作られ、その度に森林を切り開きつつ共存してきたと述べている。更に文明の滅亡とともに森林も滅びてきたと述べている。これは人間が住みやすいような環境に変えていくために、そして都市を作る材料として森林が使われてきたことを意味する。
 反対に近現代の海外の事例として取り上げられている都市はいずれも森を「消費しない」という点で共通している。圧倒的な森林に囲まれた少数民族「瑶族」しかり、争いの無かったニュージーランドの「マオリオリ族」しかり、生産とは無縁のドイツのリゾート地「バーデン・バーデン」しかり。しかしこれらは「人が少ないからこそ森に手を加えずにいられる」だけに過ぎず、多くの人間が享受できる森林都市の姿ではない。筆者の理想とする森林都市の実例としてフィンランドのエスポーとハリメンナという2都市が取り上げられている。エスポーはもともと森林だった場所に部分的に建物や道路を指し込む形で街が作られたという。森を切り開いてから人工物を敷き詰める通常の都市開発を考えれば異例である。
 日本における森林都市はどうやら筆者の思う形では実現していないらしい。著名な田園調布を例にとり上げているが、風景としての樹が植えてあるだけで人口や建物が密集してきている。更に地価が異常に高く一般に受け入れられるものではないというのがその理由だ。

理想と実現

 以上を踏まえると森林都市というのは「最大限の利便さが無くとも森林の一生態系として暮らす美しく小さなまち」ということになる。やはり古代文明の滅亡に見られるように人口過密と森林は共生し得ないものなのだろうか。地上の面積に限りがある以上、現在の大都市に森林を組み込むことは不可能なのだろうか。個人的にはそのような都市を切望してしまう。しかしそれこそ正に実現し得ない都市、「理想郷」と呼ぶべきものかもしれない。

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