ツリーの役割と弱点、系統樹の発展

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系統樹思考の世界 (講談社現代新書)

見え隠れする系統

 建築家が都市のことを語るように、既成の学問分類は時として意味が無い。私の個人的な感覚ではこのような言い回しは斬新でもなく、同世代を見渡すと自分も含め意図的に既成の分類から飛び出そうという意識の持ち主も多いように思う。ところが本書を読み進めるとその意識すら浅い範囲のものでしかないことに気づく。逆説的に、現存の分類があって始めてそれを超えるという概念が生まれることが分かる。ではなぜ現存の境界になったのか、あるいは超えた先に何が関わってくるのか、そういったものを辿るのが本書でいうところの「系統樹思考」である。

歴史と科学

 生物研究者である筆者は系統樹思考を扱うテーマとして初めに歴史を取り上げる。それは「歴史は科学である」という、現在の一般認識に反する筆者の主張であり、数多くの「系統」と歴史の研究・解明が限りなく似た思考法を取ることの証明でもある。詳細は本書に譲るが、まず典型的な自然科学の条件として以下の5つが全て可能であることが求められているという。観察、実験、反復、予測、一般化の5つであり、「歴史」は性質上これらには全て反するために科学ではないという結論が標準的であった。
 筆者はこの事実に対し、決して「何でもアリ」といった相対主義ではなく、かつ典型とは異なる科学的方法があると述べる。一般に論証のスタイルは、経験的事実から法則を組み立てる帰納法と、ある仮設を元に観察データを集め別の仮説を組み立てる演繹法があるとされてきた。歴史が科学たり得ない致命的な要因は、その両スタイルに照らして叙述が事実であると証明できないことに尽きる、と思われている。ところが科学的な法則も歴史的な叙述も、得られた結論が真実であると証明できない点においては通ずるものがある。どちらも検証できるデータの妥当性を判断し、「限りなく真実に近い推論」を導くために各々に合った研究方法を採っているにすぎない。これは上記2種類に続く第3の論証スタイルである「アブダクション」と呼ばれ、科学と歴史の本来の目的を辿ると同じような場所に行きつくことが分かる。

ツリーの役割と弱点

 上記の例のように現存の分類は何かしらの矛盾を抱えてしまうと同時にそれらの本来の役割を辿ることで同じ着地点が見えることもある。その事例として筆者は、18世紀イギリスの思想家であるウィリアム・ヒューエルが提唱した「古因学」を挙げている。

"『古因学』に分類されるためには『過去の事象に関する因果法則』を追求するという研究目的が共有されていることがただ一つの条件です。"

と筆者が述べるように、現代でいえば化石、生物、地理、言語、民俗、写本といった分類の学問が一緒くたに扱われていたという。かつて一つだった学問が系統樹のように分かれた経緯を考えれば、現在の学問分類を辿ると一つの流れに行きつくというのが筆者の考えである。
 ただ、もちろん筆者のせいではないのだが少々肩透かしを食らったのは、「限りなく真実に近いツリー」の見つけ方である。最終的には人々の認識に頼る分類思考と異なり系統樹思考は個々の関係性を問うものであるからどこかに正解が存在する。数学の勉強で樹形図に苦戦したことのある人ならそれを思い出せばいい。つまり最適なツリーはを描くには最終的には考え得る全てのパターンを試すしかないという結論が示されている。もちろん諸条件によって手数を減らすことは可能らしいが、それでもコンピューターでも時間のかかる膨大な樹形を書く必要がある。
 系統樹思考の最も怖いところはおそらくこの膨大な検証を避けるがゆえの見落としだろう。全てを検証しなくとも常識や固定概念によって正解に近いツリーを直感であぶりだすことは可能である。ただし、東南アジアのスラム街にある掘立小屋のような家が近年に適当に作られたものであると思いこんでしまうと、植民地宗主国であった国の住宅との関連性を見逃してしまうことにもなる。

系統樹の発展

 ツリーは分かりやすい一方、忠実に考えれば根の部分は孤独になってしまう。それを解決するための例として根の関連性を加えたネットワーク構造などが提唱されている。当然、考えるべきパターンもより膨大なものになるが、ツリーのままではあらゆるものは無限に分化していく以外の選択肢が無いことになってしまう。グローバル化が進んでいる現在、世界には未知の「モノ」が多かったことを知ると同時に共通するものに気づくという、多様性と統一性を同時に体験する矛盾した状態にある。それを解決する手立てとしての「根の関連を解析する」モデルは一つの画期になるのではないかと思う。

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