都市美≒集団美意識。政策としての都市美

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都市美―都市景観施策の源流とその展開

都市美≒集団美意識

 「私たちが眺める風景は、風景そのもののうちに美が存在しているのではない。風景を眺める主体の側に感得すべき美を認識する規範が存在しているからこそ、ある風景を美しいと感じるのである。」冒頭の一文である。風景や景観の「美しさ」は存在論ではなく当人の認識次第ということであろう。とはいえ完全な個人の自由というわけではなく、ある集団や民族が美しいと感じる景観は存在し、それこそが本書のテーマである「都市美」である。多くの人間が住まう都市にはどのように美意識が育まれていったのだろうか。

政策としての都市美

 本書にはイタリア、フランス、ドイツ、イギリス、ベルギー、スペイン、アメリカ、日本と8ヶ国の事例が紹介されており、各国の都市景観を専門とする著者によるオムニバス形式となっている。副題にもあるように都市美を創出もしくは保全していく方法は「景観政策」に尽きると言っても過言ではない。

 イタリアではローマ時代、ルネサンス期、近代化と、都市構造および都市景観が大きく変化する契機が3度あった。それぞれに
①基盤整備によるモニュメント創出や視覚的支配⇒②個別要素の確立とデザインルールの発足⇒③歴史的景観保全と近代建築の共生と変化をしながらも前時代までの要点を受け継いできたと言える。

 フランスでは有名なオースマンのパリ大改造をきっかけに都市景観がほぼ決定的な形を取ることとなった。それ以前にも個々の建物や公共空間に対する美化政策はあったものの、統一性のないものであった。それをひとまとめにしたパリの計画は時代を画するものであったが、同時に新しいものに対応できないという弱点を抱えることとなった。以来、パリでは美の創出ではなく保存の方に主眼が置かれているという。

 ドイツでは都市スケールを飛び越して「国土計画」を行っていたことが知られている。当然、前者の2カ国と比較して建物よりも庭園や外部空間の美化を重点的に行っていたという。ところが都市化による人口移動から土地不足が懸念され、庭園創出の熱は徐々に下がってていった。その後の建物に関する規制も、美創出というよりは現状悪化を防ぐ法律にとどまっている。

 イギリスでは都市美以上「田園美」を指向してきた。その理想として考えられたのがいわゆる「田園都市」である。田園都市レッチワースの設計者アンウィンにとっての美とは、「ヴァナキュラー建築を改良し、イギリスの農村生活の美徳を復活させることに加えて、イギリス伝統のピクチャレスクなデザインを意識したもの」であると記されている。彼は田園美を都市部に創出すべく奔走するが、人員不足や現状の規制を見直す羽目になり、田園美を失う代わりに良質な都市計画を作り上げるという本末転倒な事態も起こった。

 ベルギーでは、オスマンのパリ大改造を模倣した結果地域色が失われたという問題意識から都市美が構築された。かつてブリュッセルの市長を務めたシャルル・ビュルスという人物の活躍が取り上げられており、彼の功績は既存の街をなるべく保存するよう努めたことであるといえる。もともと豊かな都市空間を有していたとはいえ、全体を取り壊さずとも十分な効果を挙げられるとの理念の下、ありのままの都市を評価したビュルスは、この時代には稀有な人物であったといえる。

 スペインのバルセロナは他の多くのヨーロッパ都市と異なり、従来の都市空間が一掃されることなく都市美を構築した珍しい例である。バルセロナで注目すべきは、新市街・旧市街ともに深刻な問題となっていた建て詰まりを改善した点である。これは従来の建築による都市美構築とは異なり、オープンスペース創出による市民生活の場を多く作り出した。著者は、過去の計画が実現せずに終わったという経験から、秩序化された都市美に対し、他の西欧諸国ほど関心が強くなかったと述べている。それが結果的に良い方向へ動き、生き生きとした市民生活の場を生み出すに至ったのは注目に値するだろう。

 アメリカではシティ・ビューティフル運動に代表されるように、市民が「都市美」を作り上げていこうとする活動が行われた珍しい国である。人間生活に都市美が必要なこと、トータルとしてのマスタープランが必要なこと、客観的に都市美を構想する専門家が必要なこと、などが共通意識としてあったという。実はアメリカの高層ビルに関する条例も都市美運動が発祥であるが、次第に開発の効率や恩恵をいかに創出するかという点に関心が削がれてしまった。

まとめ

 このように、都市美の原初の理念が正しく達成されている例は少ない。正しくは初めに理想ありきの都市美が実現していないと言うべきかもしれない。ベルギーやスペイン(あるいはイタリア)のように現状を認識したうえでそれを活かすような計画の建て方が結果的に柔軟で長く続く都市美を作り上げていると言えるのではないだろうか。

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