都市のバランス、イメージの構造

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都市のイメージ 新装版

都市のバランス

 都市、あるいはそこに住む人にとっては「分かりやすさ」が不可欠である。1960年、いわゆる近代都市計画が主流であった当時、ケヴィン・リンチはこのように提唱する。これはよく言われる近代合理主義への批判では決してない。むしろかの合理性や純粋主義が都市住民の側により歩み寄ったものとも捉えられる。ある一定の枠組みの中でのサプライズを射程とするリンチの主張は、近代都市計画には無かった多様性を認めるとともに、「複雑性を意識しすぎた無秩序」に振れることもないバランスを生み出した。

イメージの構造

 近代都市計画は、言ってみれば建築家や都市計画家、あるいは為政者が価値の高い建物や整然とした道路配置を生み出すことだった。彼らは近代化の精神に則り誰にとっても価値のある、誰からも認められる都市を作ろうとしていたのである。それに対し、都市のあるがままの形態を住人がどのように感じているかをアンケート調査や都市の探索からの分析により明らかにしたものが、本書のタイトルでもある都市のイメージである。前者が都市におけるたった一つの正解を求めたのに対し、後者は都市の形や見た目そのものを評価しようとする姿勢が伺える。
 リンチはまず、人々が周辺環境に対して抱くイメージそのものを、アイデンティティ(そのものであること・役割)、ストラクチャー(構造・空間的関係)、ミーニング(意味・象徴)という3つの成分に分けている。更に上述のミーニングを捨象し、都市の物理的特性に注目することで都市の形態そのものをパス(道・通り)、エッジ(縁・境界)、ディストリクト(地域・特徴ある領域)、ノード(結節点・パスの集合)、ランドマーク(目印・焦点)の5つのエレメントに分類した。これらが単体または相互に組み合わさって都市の視覚的形態が構成されるとしている。それらの分析対象として本書で取り上げられる事例(フィールド)はアメリカのロサンゼルス、ボストン、ジャージー・シティの3都市である。リンチは各都市の住人に作製を依頼したイメージ・マップは、住人の目から見た都市の姿(それも正確な形態ではなくイメージ)を地図として表現した画期的な成果といえる。その結果、都市のイメージとして人々に強く残るものが大規模な建物や広い道路では必ずしもないこと、それでもなお人々に共通して印象に残るエレメントがあることを看破している。
 エレメントは単体のみならず複数の組み合わせでもイメージを想起させる。これをイメージ・アビリティという。例えばある道を見分けるとき、近くの塔(ランドマーク)を思い浮かべることもあれば、特徴的な舗装をもつ通学路(パスとディスリクト)として認識することもある、という具合である。

著作の広がり

 この著作は単に都市計画分野への貢献にとどまらない。リンチが都市の物理的環境を扱う現実に即した実践家でありながら、「都市のイメージ」が行動論的なアプローチを取るものだという点で異なる専門分野の人にも広く読まれている。私的な感想になるが、都市というものがこの手法で全て説明できてしまうのではないかと錯覚するほど、読んでいて批判すべき点があまり見当たらないことに驚いた。もしかするとリンチ自身もこの理論の当てはまらない都市を誰かに見つけてほしかったのかもしれない。

都市のイメージ 新装版

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  • ケヴィンリンチ

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