第一級知識人による第一級古典の読み解きと講義

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文明論之概略を読む 上 (岩波新書 黄版 325)

『文明論之概略』を用いた古典への姿勢

この上中下の3部作は、丸山真男が『文明論之概略』の読解を通して古典の読み解き方を示す講義録である。特にこの『上』は古典全般との接し方についても序論で述べている。
世の中において学問に努めたいと考えたとき、多くの人は古典を学ぶことを決意する。だが、その一方で「古典」と呼ばれる書物の多くは難解である。故にこれまた多くの人は座右に解説本、解釈本などを置き、引きつ当てはめつ目的の本を読み進めて行く。そのような、「目の前の古典に対して学ぶ」という行為そのものを、この本の中で丸山真男はなによりも主題としているように思える。

巻之一もその解説をする上巻も包括的である

もちろん解説本である故『文明論之概略』という本の説明、及びその中に書かれた福沢諭吉の文明観というものも説明はするが、それらすらも、「いかにして読むことでその文明観を汲み取ることができるか」の流れの中に含まれる。とりわけ、この「上」で解説する範囲は件の本の一巻目であり、その内容は

  • 第一章 議論の本位を定る事
  • 第二章 西洋の文明を目的とする事
  • 第三章 文明の本旨を論ず
という3つの章からなる。章の題名からわかるように、この一巻目は文明論を語る前段階の、何を何のために、そしてどのように語るつもりなのか、そういったことを書き連ねている。それに併せているためか、この『上』においては、まず丸山真男から見た「古典」というものについてだとか、福沢諭吉が件の本を書いた時代背景やその時代における福沢の思想的立ち位置。そういったマクロな視点、枠組自体の話から解説を始める。

『文明論之概略』をタネに展開される講義

マクロ的な視点を説明し終えたら、いよいよ本来の目的である『文明論之概略』の解説が始まる。ここで目を引くのは、さすがというべきかやはりというべきか、筆者の解説…というよりはむしろ解体の巧みさである。筆者はこの本をタネに、福沢に思想的影響を与えた思想家の影響などがどこに現れているか、福沢はどのような意図でもって文中のたとえ話などを用いたのか。さらに言えば、福沢は何故文中でそのような表現を用いたのであろうか、など次々に話を脹らませていく。このような分析によって一冊の本をどんどん読み深めていく。まさに、古典の解釈。とりわけ福沢の思想に影響を与えたギゾーやミルとの紐付け方は、見事な流れである。

もちろん、この本のみで読んでも面白い

この本の中で、筆者は「講義部分を読む前に話題となる部分を読むことを薦める。できれば音読」とネタとなる『文明論之概略』を読むことを薦めている。もちろん、この本は講義の該当部分で文章を読まねばならない部分であれば四角囲いで該当文を載せている。が、やはり真にこの本を読み進めたいのであれば、岩波文庫版であれ全集版であれ、『文明論之概略』を脇に置き、ゆっくりと読み進め、ときに音読すべきだろう。
優れた書物は目だけではない、耳でも楽しむことができるし、であるならば耳でも楽しむべきだろう。

感想

岩波新書で「丸山真男」と聞くと『日本の思想」の方を思い浮かべる人は多いでしょう。もちろんあちらはまさしく著者の考えを主軸とした本であり、こちらはあくまで解説本であるから、あちらの方が魅力を放つ。ですが、講義録という形をとったことによって、この本は筆者の教師的な側面であったり、語りかけてくるような語調であったり、より「わかってほしいこの考え」という雰囲気が文章から伝わってくる気がします。
まとめにも書きましたが、この巻ではまず序文において筆者の古典との向き合い方に関する考え方を話しています。なので、たとえ上・中・下巻をよみとおせないという人でも、上巻だけは、読むことをお薦めします。

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