町田小説でさえも,道も理もない世界でさえも,値の付かない世界には行き得ない哀しみ

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珍妙な峠

生きているだけでお金がかかる宿命に挑む男の話,バイ貝,の続編.

年の瀬の濁流に揉まれ,無我夢中でもがき,つま先だって手をうんと伸ばしてようやっと
対岸の巌に取りつき,それで,やっと年を越すことができた

とあれば,読む人は,これを比喩と読むだろうが
本作では,まさにこの濁流が存在し,それに流された主人公が
対岸の峠をさすらう.

以下,そこだけ読めば,意味不明,不鮮明の文章が,
町田の文脈の中にあって光輝く,町田マジックを感じた.

ただ,丸ごとの,ラララ,自分だよ.とびっきりの自分くんだよ.
そのとき俺はもう絶対に眼球なんて外さない.
俺というものは一個のパノラマだよ.

普通の炊飯器ならここまで米を追いつめることは絶対にしない.
もちろん,この炊飯器で炊いた飯を食べると,あまりのうまさに精神に異常を来す.

俺は,巷間に流布する,
消費者はテクノロジーという奴隷を従えた王,
という考えが嘘で,
消費者はテクノロジー,そしてそれを操るものの奴隷,
というのが真実,ということに気がついてしまった.

ここは自分の家,自分だけの趣味のよい家,などと肩肘を張らず,
ださい世の中をみんな引き受けて,みんなで仲良くして,
そのうえで,そうしたホームパーティーを開けばいいじゃないか.

といった文章.
これらが,すっと,心に寄り添ってくる.

そして,道も理もない峠の世界でも,値の付かない世界には行き得ない哀しみ
否,その哀しみを乗り越えて,自らそうした世界に飛び込む
つまりは冒頭にある濁流に飛び込むシーンで本書はフィナーレを迎える.

珍妙な峠

珍妙な峠

  • 町田 康

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