法律の使い方、扱われ方

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少女は鳥籠で眠らない (講談社文庫)

リーガルものの連作短編。

児童福祉法違反で逮捕拘留された被疑者の皆瀬理人の弁護を担当することになった木村弁護士。
皆瀬理人は、家庭教師をしていた教え子の高校生、黒野葉月に、無理やり性行為をしようとしたところを、黒野の父親に見られ、通報され、逮捕される。教師と教え子という上下関係の中での未成年者への淫行なので、起訴になるのが相当。できることは、被害者との示談交渉という状況。
そんな中、被害者の父親が、示談に応じる旨を木村弁護士に伝える。娘に二度と会わないと約束すなら示談にする、と。木村弁護士もその約束を取り付ける。しかし、皆瀬理人はそれを拒否した。会わないなんて、出来ません。
対応について頭を抱える木村弁護士だが、黒野葉月が登場することで、事件の様相が変化していく。そこが見もの。
弁護といういわば法律を守ること絶対としている中で、当たり前だけれどそこには人の思いがあり感情があるということを、きちんと突きつけてくれる。

木村のロースークール時代の友人である石田克志が不法侵入を犯して、警察の厄介になった。不法侵入を働いた家は石田の実家であり、事件になるような内容ではなかった。
石田はロースクールを中退。弁護士という夢を持っていたが、自分に子どもが出来たことを知ると弁護士の夢を捨てた。そしてその事を後悔していなかった。自分の家族を守る。それが石田にとっての1番の夢になっていた。
彼の両親は離婚している。父親が身勝手な人物で、それに耐えられなくて離婚した。母親は養育費を受け取らずに石田を育てた。その母親はすでに亡くなっており父とはその時まで音信不通だった。
どうして石田が実家を不法侵入して盗みを働こうとしたかというと、自分の子どもが心臓に病を抱えており、治療のために多額の費用がかかるからだった。
ほとんど絶縁状態だった父親は、自分の孫が病気だと知っても同情するような人間ではなかった。土下座をしても自分の息子である石田を否定し、ひどい言葉を浴びせる。お金を工面してくれる様子もない。そこで、石田克志のとった行動とは。
石田克志は非常に合理的で頭のいい人間。その人間がどのように金を工面するのか。そこが読みどころ。冷徹な人間が取る行動としては、それを想像すると怖いものがあるが、これもまた愚直なまでの誰かへの想いが成した行為なのかもしれない。

木村は、知り合いを通じて三橋春人から離婚の相談を持ちかけられる。三橋春人の妻は不貞行為をしている可能性があり、2人の間には子どもがいる。三橋は円満離婚と親権を得たいと思っている。
話の流れは、以外にハードルも高くなく、妻の不貞行為はすぐに発覚。妻もそこまで言い訳をしたりもしない。離婚や親権の獲得は、とんんとんと進んでいくように描かれる。その中では、木村の知り合いである女性と三橋との関係のいじらしさも出てきたりと、微笑ましい場面も見受けられる。うまい具合に話は進み収束していくのかと思いきや。
そんな中での、最後の展開。三橋春人の真意を知った瞬間。ここでもやっぱり出てくるのは、人の執念。自分の目的のために法律を使う。そのことはもちろん違法ではないが、その目的を達するための障害の蹴散らし方は、出来れば共感したくない。

芸術家である小田切惣太と彼を支える遥子。2人の関係について、木村はある疑惑を持つが、果たして2人の関係というのは。
これまで人の執念や思いの強さのネガティブな方向性が描かれていた。しかし、この一編は、気持ちの温かさに触れている。
ラストの思いの不確かさに、心を打たれる。

感想

法律の使われ方は、どうしても無感情でその人を蔑ろにするものだと思いがちだが、その法律を利用する側は、当たり前だが血が通った人間だ。その想いを強く印象づけられる作品。

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