格差を科学する

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日経サイエンス2019年5月号

◼️アメリカの格差は仕組まれたもの(スティグリッツ)

スティグリッツ教授の考えでは、アメリカの格差は「誤ったルール設定」が原因である。つまり、仕組まれたものである。法改正によって、これは是正できる。

大企業による市場支配

アメリカの企業は製品開発において革新的だっただけでなく、市場支配力の増強においても成功した。アメリカでは独占禁止法の執行が弱まっていることをはじめ、市場支配力の集中を抑える方策が少ない。そのため、少数のグローバル企業が市場を支配するに至った。価格の設定は企業の都合のいいように定められ、またその配分も経営者の都合で決められる。

労組の低迷

アメリカでは労働組合の力が低迷し、労組の割合は約11%になっている(北欧諸国では約70%)。従業員が賃上げや待遇の改善を要求しても、「要求を緩めないなら海外に移転する」という脅しをかけることができる。

希望を失うアメリカ

経済学者のケースとディートンは、病的状態の悪化(アルコール依存症、薬物の過剰摂取、自殺の増加)を招いた主要原因の一つが、希望をなくした人々による「絶望死」であると述べている。

政策提言

・高率の累進課税
・国費による質の高い公教育
・市場支配力に対応する既存の法律の執行強化
・企業トップが得ている法外な給料を抑制する企業統治法
・銀行による搾取的な業務に携わるのを防ぐ強力な金融規制
・差別禁止法の執行の改善
・医療サービスを受ける道の保証
・年金制度の強化
・全ての人にそこそこの住宅を保証できるような都市住宅供給政策

◼️不平等が蝕む健康(R・M・サポルスキー)

アロスタティック負荷

1990年代にロックフェラー大学のマキューエンが「アロスタティック負荷」という概念を唱えた。
アロスタシスというのは、ホメオスタシスを踏まえた概念で、「動的適応能」と訳される。
ストレスの多い環境では、「アロスタティック負荷」が大きく、アロスタシスが疲弊する。これが、社会・経済的地位の低さが健康に悪影響を及ぼす理由である。
(これについては消化不良。よくわからん)

経済格差が生む不調

貧富の差が大きい社会での暮らしは、持続的な社会的・心理的ストレスを生じさせ、それが健康に影響する。
・前頭前皮質ーー計画立案や意思決定に不可欠なこの領域が損傷する。
・海馬ーー学習と記憶に重要な活動が低下する。この脳領域のサイズも縮小。
・扁桃体ーー恐怖と不安を伝達する領域。この領域の活動が高まる。
・中脳辺縁系ドーパミン系ーーやる気に重要な信号を伝えている領域。この領域のニューロンの働きが乱れ、うつと依存のリスクが高まる。
・慢性炎症ーーストレスホルモンと免疫系によって生じる慢性炎症は、全身の生体分子にダメージを与える。心臓病やアルツハイマー病など多くの病気のリスクを高める。
・循環系ーー血圧が上昇し、動脈硬化と脳卒中のリスクが高まる。
・代謝ーー全身の細胞でインスリンに対する反応が低下。腹部脂肪が増え、糖尿病につながる。
・生殖器官ーー生殖機能と性的衝動が乱れる。
・染色体ーーテロメアが短くなり、分子レベルでの老化が進む。

自制心や忍耐力の不足

ストレスは時間割引を激しくする。つまり、待った方が得なのに、それに我慢できなくなる。衝動的な欲を抑えられず、ダイエットなどの長期的な計画を立案・継続できなくなる。これがさらに損失を招く。

◼️日本でも進む「格差と健康」研究

詳しい内容は割愛。「相対的剥奪」という概念と、近藤尚己・東京大学准教授(社会疫学)の名前をメモしておこう。

感想

アメリカに住む多くの人々が、アメリカン・ドリームなど見るべくもないのだと、あらためて思わせられた。
その格差の是正に向けて、スティグリッツ教授がさまざまな提言をしている。
問題は、これが実施されていくかだ。実施されないとすれば、その理由は何なのだろう?
(2019年7月6日読了)

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