山手線の発車音を作った人の本「見えないデザイン ~サウンド・スペース・コンポーザーの仕事」

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見えないデザイン ~サウンド・スペース・コンポーザーの仕事~

山手線の発車音を作った人の本です

今ではすっかりおなじみとなった山手線ホームの発車音楽。
そのルーツは1989年、ホームの放送設備を一新しようとしていたJR東日本が、「発車ベルのクオリティ向上」を含むヤマハの提案を採用したことにはじまります。

そのヤマハのチームで音響ソフトの制作担当者をつとめ、実際の音づくりを担ったのが、著者の井出さんです。その制作秘話から、本書は始まります。

公共の場での発車音だけに、「騒音の中でもよく通る音でありながら」「うるさくない」など、矛盾する様々な条件をクリアすることが求められ、現場は試行錯誤の連続だったようです。山手線の音楽は私自身もよく知っている身近な音楽なのでイメージがわきやすく、「確かにこの条件も満たしてるな」といちいち納得でした。

一つの分野の第一人者であるということ

秋葉原などでは各駅の音楽が鳴るストラップが売られてるくらい、大当たりしたJR東日本プロジェクト。これがキャリアのハイライトになるのかなーと思いながら読み進めていくと、これはあくまでも出発点だったというのです。取材が殺到し、注目も集めた大プロジェクトについて、

「度胸をつけ自分の器を大きくする、お化け屋敷とか肝試しのようなものだったと思います。」

と言えてしまう井出さん。

その後ヤマハから独立し、音をベースにした空間づくりの第一人者として新しい分野を切り開き続けてきた数々のエピソードを読むと、その言葉も納得です。

井出さんが手掛けてきた仕事は、「愛・地球博」の音響プロデュース、「表参道ヒルズ」の音響ディレクション、映画館の音響設計、さらには音楽療法など、多岐にわたります。著者自身が切り開いてきた分野だけに、毎回が新しい発見や苦労、試行錯誤の連続だったようです。

望む音が出るスピーカーを自分たちで作ったり、山を歩いて雪解けの雫の音を録音したり。これが同じ一つの仕事なのかと思うほどの幅広いエピソードが登場します。仕事の範囲が定まっていない新しい分野で、仕事の範囲自体を広げていく。井出さんの体験談を通じて、「第一人者」とはどういうものなのか、垣間見ることができます。

様々な角度から「音」への理解を深められる本

本書を読んで感じるのは、著者が本当に「音」のよき理解者だということ。
夜明け前の音と、日の出後の音の性格の違いについて語り、
新しいスピーカーから流れてくる「人見知り状態」の音と、なじんだ音を聞き分ける。
音というものに対して、ここまで愛情を注げる人がいるということに、驚くばかりです。

空間の違いによる音の響き方の違いといった専門的な話だけでなく、「歌手のレコーディング」の話とか、自然の中に入って行って録音する時の心構えとか、様々な切り口で「音」が語られています。私自身「音」や「空間」に関して全くの素人ですが、これだけ多くの切り口が用意されていれば、誰でも何かしら「面白い!」話に出会えるように思います。

音のプロフェッショナル

空間が求める音を追求する職人でありながら、サラリーマンであるクライアント担当者への配慮も忘れない。
山の中などで録音するときや聖堂の音響設計に携わるときは、自然への感謝とか聖域への尊敬といった目に見えないものも大切にする。
プロフェッショナルという言葉はこういう人のためにあるんだと感じました。

音や空間に対する専門的な話だけでなく、「仕事とは何か」「プロであるとはどういうことか」を考えるヒントもたくさん詰まった本です。

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