日本のLRT(Light Rail Transit)、阪堺電車(大阪⇔堺)が舞台の小説

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阪堺電車177号の追憶 (ハヤカワ文庫JA) [kindle版]

昭和8年(1933) 4月

 ※2年前に満州事変、同年3月に国際連盟脱退
  戦争の足音が近づくも、第二次世界大戦勃発(昭和14年;1939)にはまだ時のある時代
  主人公である鉄道車両はまだ新品

 仕事に慣れ始めた車掌 辻原は電車沿線の住宅街のベランダに気になるものを見つける。ポツンと干してある手拭いの柄が日により変化するのを見て、辻原はその店(質屋)の若女将から愛人に向けた合図ではないかと推測し、好奇心から調査を始め、事件は思わぬ方向に転がる

昭和20年(1945) 6月

 ※同年3月13-14日大阪大空襲。大阪市内の多くが焼け野原に

 人手不足の為、臨時の運転手として働く女学生の雛子は、車両運転中に空襲警報を耳にする。乗客を防空壕に避難させるも、防空壕に入ろうとしない女性を追い、寺に避難する
 防空壕に入りたくない理由の説明を受け、彼女のトラウマ軽減になれば、とおせっかい心を働かせた雛子は隠された真実に行き着く

昭和34年(1959) 9月

 ※日米安全保障条約改定に反発する安保闘争が活発化。社会の歪が現れ出した時代

 阿倍野でコックをしている章一は、通勤時阪堺電車の車内である女性に密かに思いを寄せていた。ある日その女性が財布を落とし、話しかけるチャンスと意気込むも、小学生がその財布を結んで行った。電車通学をする子供はまだ珍しく、貧しそうにも見えない子供が財布を盗んだことに驚いた章一は、勇気を出して女性に声をかけ、共に少年が心の奥に分け入っていく

昭和45年(1970) 5月

 ※同年3~9月アジアかつ日本発の国際博覧会(大阪万博)開催。日本中がお祭り騒ぎに

 久し振りに故郷の大阪に戻ってきた信子は、妙な視線を感じていた。視線の主は、戦時中、信子が防空壕に入るのを嫌がった時に一緒に寺に避難してくれた運転手 雛子だった。雛子に誘われ、喫茶店で話をするうちに、信子は昔の話をぽつぽつと語りだし、雛子と別れた後、ある決意をする

平成3年(1991) 5月

 ※昭和末期(1980年代後半)に始まった好景気(バブル)が崩壊するも世間はまだ浮き足気味

 クラブで働くアユミは店で実家が破産する原因となった不動産業の相澤を目にする。相澤がさらなる阿漕な地上げを企てていると知ったアユミは同僚マキやナツキの手を借り、相澤を追いつめることにする

平成24年(2012) 7月

 ※同車両が日本で定期運航される車両としては最古のものとなり鉄道ファンの注目を集める
  

 スクープ写真を狙うカメラマン勝間田は張り込んだマンション前に、自分と同じカメラを持った男を発見する。同業者かと身構えるも、それは始発電車を待つ鉄道ファン幸平だった。そこに第三のカメラマンが現れ、事態は意外な方向に転がり始める

平成29年(2017) 3、8月

 ※小説の電車のモデル(モ161系?)の多くがこの前後に廃車、民間施設などに譲渡される

 阪堺電車177号が廃車になることが決まった。永きにわたり乗客の人生を見続けてきた車両も覚悟を決め、最後の日を迎えた。しかし、完全にスクラップになると思っていた車両は思わぬ形で、かつての乗客たちと再会する

感想

 最近、欧米諸国で、高齢化や都市の環境負荷低減などにより、ライトレールが見直されているらしい。
 そんな新聞記事を読んだこと、本書が、第6回 大阪ほんま本大賞受賞作であり、日本のライトレール――路面電車 を舞台とした小説だということから、興味を持って読んでみました。
 会社目線の企業小説かと思っていたのですが、利用者目線の企業小説で、予想外でしたが、それはそれで面白く読むことが出来ました。
 人情ものや昭和初期から現在を舞台にした小説がお好きな方、大阪に縁のある方、鉄道が好きな方にお勧めの日常小説です。のんびりと癒されました。
 注釈で入れた時代背景はまとめ者の独断で入れた当時の時代背景です。小説冒頭でも「車両の一人語り」という形で、時代背景が描写されています。

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