「北の非核化」を巡り米中朝が騙し合いの歴史を繰り広げる背景を理解する最適の書

3008views飛立知希飛立知希

このエントリーをはてなブックマークに追加
習近平帝国の暗号 2035

 2035年までに中国を世界一流国にする。この「2035」という数字こそ、習近平の発する暗号、「習近平コード」である。党大会直前に、軍首脳を次々粛清した狙いは何か。北朝鮮の核が中国にとってもなぜ、脅威なのか?著者はこれらの謎を渾身のノンフィクションで解き明かす。
 2017年米国のドナルド・トランプ大統領と北朝鮮の金正恩党委員長が罵倒を続けていた際、負けず劣らず中朝も罵詈雑言を浴びせあっていた。だが中国は日本、韓国に再び米軍の戦術核兵器が持ち込まれるのを潰そうと動いた。ニューヨークでの日中外相会談で中国の王毅外相が河野太郎外相に「日本は戦後、平和憲法を制定し非核三原則を確立した」と言及したことは、日本が北朝鮮が既に核兵器保有国だと認識した発言を牽制する狙いだった。「日本はそれを口実に自らも核兵器を開発したいとの下心があるに違いない」一方、韓国の康京和外相の発言は「朝鮮半島への戦術核兵器の再配備を検討しないとの公約を忠実に守る」と説明したが、アジアの安保関係者は「過去の援助で北朝鮮をつけ上がらせた責任を棚上げにして韓国を生け贄にしている」と酷評。
 92年に中国が北朝鮮の敵国、韓国と国交を結び、89年に天安門事件で追い込まれた中国が経済を優先させた。同じ社会主義国のはずの中国の裏切りに映った北朝鮮は中国に対抗し核開発へのめり込んで行く。すなわち「北朝鮮の核開発の根本原因は中国だ」と華東師範大学の沈志華教授(中朝関係研究)は断じたのだ。
 2017年12月6日「吉林日報」は一面で「核戦争に備えよ」という特集記事を掲載。中朝友好協力相互援助条約は一方が攻撃を受ければもう一方が支援する自動参戦条項。だが鋭く対立していれば国連決議を無視する北朝鮮が空爆されても中国は助けないという示唆でもある。
 「全軍の各層は兵を鍛えて戦いに備えよ」「苦難も死も恐れるな」
 中国の習近平国家主席は年頭に臨戦態勢をとるよう叱咤激励した。中国は武力行使に強硬に反対しているが、トランプ氏が決断すれば誰も止められない。
 習氏にとって、朝鮮半島問題の扱いは中国内の民族問題に火を点けかねず「プロジェクト2035」が崩壊しかねない問題だ。これを見抜いた金正恩氏は2018年2月の平昌五輪に罠を仕込んだ。第二子を妊娠中の身重な妹の金与正氏を特使として送らざるを得ないほど金正恩氏は追い詰められていた。
 《韓国の政府と民衆が北朝鮮の核開発を容認し、朝鮮半島に核保有国家ができるのを裏では歓迎しているーこんな雰囲気が出来上がれば、金正恩の勝ちだ。中国は苦虫を噛み潰しているがひとまず朝鮮半島での米朝戦争が遠のくなら、表面上は歓迎するしかない。だが、中国が主張する「朝鮮半島の非核化」は遠のく。東アジア世界に中国以外の核保有国が出来上がれば、これまでの国際秩序は保てない。韓国ばかりか、台湾、もしかして日本だって核武装を言い出す恐れがあり危険だ。中国の本音はそこにある。朝鮮族の民族意識に火がつき、「統一国家」への帰還が現実化したらどうなるのか。当然ながら、今でも独立運動がある新疆ウイグル自治区、チベット自治区の民族問題に波及する。これだけは容認できない》
 中国を2035年までに一流国家にする「プロジェクト2035」なる一大目標。そのための外交政策として習氏が打ち出したのが「韜光養晦」だ。かつての鄧小平氏が「能ある鷹は爪を隠す」中国の外交・安保方針を打ち出した時代の戦略を復活させた。本書は現在の北の非核化を巡り米中朝が騙し合いの歴史を繰り広げた背景を理解する最適の書である。

関連まとめ

本のまとめカテゴリー


コメントを書く