腸は脳より先に存在し、脳を支配している。

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うつも肥満も腸内細菌に訊け! (岩波科学ライブラリー)

まず腸があった

 器官と呼べるものを初めて持った多細胞動物はクラゲやイソギンチャク、ヒドラなどの仲間である刺胞動物だ。刺胞動物は原始的な消化管である袋状の胃体腔があって、その開口部は植物を取り込みと排泄の両方を行う。つまり口と肛門が同じのである。
 刺胞動物の神経細胞は感覚細胞と神経節細胞に大別され、外部刺激を感知して運動を自律的に制御する。取り込まれた食物や消化された栄養分を収縮や伸張によって胃体腔内に行き渡られたり、排泄物を送り出したりする。食物を取り込み消化し、栄養分を吸収し、残滓を排泄するという一連のメカニズムには、それぞれの筋肉細胞の協調を必要とし、その動きを制御するシステムが必要になる。これは人間の消化管でも同様である。
 つまり、神経系の進化は消化管とともに始まった。いってみれば、脳は腸肝神経系を真似てつくられたのである。腸は第2の脳=セカンド・ブレインではなく、むしろ最初の脳=ファースト・ブレインであったのだ。

セロトニン産生を促進する腸内細菌

 セロトニン(5-HT)の95%は腸に存在し、腸管神経系を通じて消化管の蠕動運動を支配している。腸管セロトニンの分泌が過剰になれば下痢を、不足すれば便秘をもたらす。
 アメリカ・カルフォルニア大学ロサンゼルス校のエイレン・シャオ博士らの研究グループは、無菌マウスでは、通常の腸内細胞叢をもつマウスに比べて腸におけるセロトニンの合成量が60%も低下していたと報告している。年齢の影響による有無を確認するため、出征直後、離乳期、成熟初期の無菌マウスに通常の細菌叢を移植し、それぞれ56日齢になったところで測定したところ、いずれの血清、結腸でもセロトニンレベルが回復したという。逆に通常の細菌叢をもつマウスに抗菌剤を投与して細菌叢を除去すると、やはりセロトニンレベルが低下した。
 無菌マウスにいくつかの異なる細菌種を植え付けて変化を調べると、約20種類の芽胞形成菌が腸内セロトニンレベルを上昇させることが分かり、芽胞形成定マウスでは、腸の蠕動運動の亢進も見られ、血小板の活性も高まっていた。

腸は脳を支配するか

 γ-アミノ酪酸(GABA)もその前駆体物質であるグルタミン酸も血液脳関門を通過できないと考えられているが、GABAを経口的に摂取すると血圧を下げたり精神を安定させる効果があることが以前から知られており、何かの経路があると考えられていた。
 その経路が「求心性迷走神経」なのだ。腸でGABAのレベルが高まると、それが迷走神経を通じて脳でのGABAレベルを上昇させ、興奮を抑制させる方向に働くメカニズムが想定されている。
 アイルランド・コーク大学の研究グループは、乳酸菌の仲間であるラクトバチルス(L)・ラムノススを継続的にマウスに与えることによって、中枢神経のGABAA受容体のメッセンジャーRNAの発言が調節されることを示した。実際、L・ラムノススを投与したマウスでは、不安や抑うつ様状態が軽減した。しかも、この反応は、迷走神経を切除したマウスでは見られなかったのである。
 さらに興味深いことには、アメリカ・ノースイースタン大学のフィリップ・ストランドウィッツ博士らは、エブテピア(E)・ガバボラスというGABAを餌にして増殖する腸内細菌を発見した。GABAを産生する細菌とともに、消化する細菌がいることで腸内のGABAレベルが調節されており、そうした細菌の相互作用によって私たちの気分や感情が左右されている可能性もあるという。

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