林芙美子「放浪記」

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放浪記 [kindle版]

貧苦と不運のままに彷徨いながらも生き抜く、女流作家の自伝的作品

「私は宿命的に放浪者である」。主人公のこの言葉から、流転の物語は始まる。九州桜島の温泉宿の娘が、他国者と駆け落ちして落ち着いた下関。そこで生まれたのが主人公の私だ。一家は父親が呉服屋を営んでそれなりに暮らしていたが、私が八つのときに新しい妾を入れるために、母親と家を出ることになる。母は再婚し、母・養父・私の三人で九州一円を行商して回る。「人生いたるこころ木賃宿ばかりの思い出を持って」一家の放浪生活がはじまる。小学校も何度も替わって厭になった私は十二歳で学校をやめ、行商を手伝うことになった。衣類や雑貨、あんぱんなどを売っている私の周りは金の話ばかり。幼いうちから私は心につぶやく「女成金になりたい」と。

尾道で深い仲になった男に連れられて私は上京したものの、男の両親の反対にあったあげくに東京に置き去りにされてしまった。男を恨みながらも、相変わらず貧しい両親のために私は働く。玩具工場の女工、事務員、店員―娼婦にこそならないが、男たちに酒を飲ませるカフェの女給仕も長く勤める。同じく苦しい人生を渡る女たちと知り合い、時に肩を寄せ合って暮らす。男運はよくない。自分を捨てて故郷に帰った男には、会いに行ったものの幻滅させられただけ。東京では役者と恋に落ち、稼いだ金を言われるままに差し出していたが、浮気の現場を見てしまう。言い寄ってくる男は少なくない。しかし、どんなに貧しく食べる物が無くとも、私は自分の人生を偽ってまで安易に身を任せはしないのだった。

私を支えるのは、愛する母を楽にしたいという思いと文学に対する情熱。東京での生活に疲れたり、虚しさに突き当たったりすると風呂敷包み一つで列車に飛び乗る。尾道へ向かうこともある。その途中で下車して神戸や大阪で仕事を探してみることもある。「宿命的な放浪者」の血が騒ぐのか、私は彷徨うことをやめない。そして貧苦の中でも詩や文章を書き続ける。

プロレタリア文学者たちや女流作家・平林たい子などと交流を重ね、作品を出版社に送る。著名な作家を訪ねては、何とかして自分の童話や詩を代に出そうとあがく。その甲斐あって少しずつ頭角を現し、放浪生活を綴ったこの日記―「放浪記」はベストセラーとなる。私は、一軒家を構えて家族を呼び寄せるのだ。

しかし、最後に私は現在の心境をつぶやく。「只、力を出して仕事に熱中し努力したいと思っています。それより他には私には何もなくなったのだ」と。流行作家となり、家族を養うために原稿に追われる日々・・・・・・。「女成金」の夢を叶えたにもかかわらず、満たされない。私の「精神の放浪」は止まないのだった。

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