樋口一葉「たけくらべ」

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たけくらべ [kindle版]

吉原を舞台に、子供時代への郷愁と淡い恋を美文で綴った名作

舞台は吉原遊郭に隣接する町、通称大音寺前。吉原は江戸時代の初期に造成された遊郭で、「悪所」として独自の文化や秩序を生み出していた。その町に住む子供たちも早熟で、大人たちの見よう見まねの風俗と価値観が身についている。

その子供たちの世界を2つに分けていたのは、鳶の頭を父親にもつ長吉の「横町組」と、高利貸しの孫である田中屋の正太郎の「表町組」だった。そして子供たちの女王様的存在、大黒屋の美登利も表町組。美登利の姉は吉原の遊女で威勢を誇っており、美登利も行く末は遊女となる身である。愛嬌があり気前がよく、活発な性格は子供たちを惹きつけた。中でも正太郎は美登利に好意を抱いていたが、彼女が密かに想いを寄せるのは龍華寺の息子の藤本信如であった。「横町組」の長吉に頼られている彼は、落ち着いた感じの優等生に見えるが実は「臆病至極の身」という小心者。たまたま勉強ができるので一目置かれていることに内心迷惑をしていた。以前、美登利に介抱されたときに周りの者にからかわれたことが耐えがたく、信如は美登利を避けている。

さて千束神社の夏祭りの夜、正太郎への恨みが募った長吉は信如の名を借りて「表町組」の集まる筆屋に押しかけてきた。犠牲になったのは正太郎の手下の三五郎。立場の弱い三五郎に難癖をつけて乱暴するのに耐えかね、美登利が啖呵を切る。長吉は美登利の額に泥草履を投げつけ、罵声をあびせた。屈辱に震える美登利は、翌日やってきた正太郎に慰められるが、学校にも行かなくなってしまう。

一方、信如は長吉が勝手に自分の名前を出したとあって困ったが、邪険にできず許してしまう。美登利は本心では変わらず信如のことを想っていたが、三五郎の一件があってから表面上は憎まれ口を叩く。

ある日、大黒屋の前で鼻緒を切って難儀している信如にも、素直になれないまま友禅の布を投げるだけ。信如もまた、布を手に取れないまま。二人の想いはすれ違っていく。

大島神社の酉の市を境にして、美登利は髪を島田に結い、急激な変貌をとげる。褒める正太郎にも「帰ってお呉れ」の一点張り。その後は子供たちと遊び回ることもなくなり、内向的になっていく。美登利は遊女になるべき運命とその辛さを悟ったのだった。

ある霜の朝、大黒屋の寮の格子に、誰からの贈り物かわからない白い水仙の作り花がさしてあった。美登利は不思議と懐かしい気持ちになり、その水仙の花を一輪ざしにいれて淋しく清らかな姿をめでる。その日は、信如が僧侶となる修行のために大音寺前を去った日であった。

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