泉鏡花「高野聖」

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高野聖 (角川文庫) [kindle版]

どこまでも美しく、やさしく、そして恐ろしい魔性の女の物語

私は旅先で一人の旅僧と知り合って、同宿することになった。その晩、私が眠れずにいると、僧は若い頃の話をしてくれた。

昔、飛騨の山越えをしたときの話である。僧は山の麓の茶屋で、ひどく嫌みな薬売りの男と知り合う。僧と男は別々に茶屋を発つが、薬売りはその先の山中で誤った道に入り込んでしまう。僧は、男を見捨てることができずに後を追った。

しかし、どこまで行っても男の姿は見えない。気味の悪い道である。叢から巨大な蛇が続けざまに2匹、3匹と現れたり、足元に巨大な鳥の卵のようなものがごろごろ転がっていたりする。やがて森林へ入ると、今度は突然木々の上から巨大な蛭がぼたぼたと降ってきて、次々と僧に襲いかかってくる。僧は体のあちこちに吸い付いた蛭を必死でもぎ取りながら無我夢中で森を駆け抜ける。

やがて僧は一軒の人家にたどり着く。家の縁側に男が一人見えたので、僧は必死で話しかける。ところが、それが生きているかいないかわからないような男で、その容貌の醜さもさることながら、何を話しかけてもボーッとしてうんともすんとも答えない。すると、そこへ現れたのは、なんとも色っぽい絶世の美女だった。先ほどの男の女房らしい。僧が一泊させてほしいと頼むと、女は快く承諾してくれたばかりか、体を洗える綺麗な流れへと案内してくれるという。体中汗だくで、しかも蛭に吸い付かれて散々な目にあった僧には願ってもないことだった。

女の案内で川に着いた僧は、修行の身ゆえに女の前で裸になるのを嫌い、服をきたまま水に入る。すると、女は「叔母さんが世話を焼くのでござんす」などと言いながら、僧の服を脱がせ、体のあちこちを洗ってくれたのだ。最初はコチコチになっていた僧だったが、あまりの気持ちのよさにうとうとしてしまう。そして、ふと気がつくと、女自らも服を脱いでいた。僧はその豊満なボディーに悩殺される。そんなところへ突然、巨大蝙蝠が飛来して女の体に吸い付こうとする。また猿がやってきて女に抱きつこうとする。女は「畜生、お客様が見えないかい」と激怒して動物たちを叱りつける。僧はそんな女の怒りぶりに不安を覚えるが、女が自分に対しては優しくしてくれるとわかり、安心する。

二人が家に戻ると、ちょうど家畜の仲買を請け負っているというオヤジが、馬を引き出そうとしているところだった。馬は強情にもぴくりとも動こうとしない。そこで、女は「しょうがないねえ」と言いながら馬の前に立ったと思うと、なんと服を脱ぎだしたのである。そして一糸纏わぬ姿になって馬の胴の下をくぐる。すると馬は急に素直になったのである。その後、僧は夕飯をご馳走になり、床につく。やがて夜が更けると、何やら外が騒がしくなってきた。さまざまな獣の鳴き声やら足音やら羽音やらがして、まさに魑魅魍魎にとり囲まれたような気配がする。恐ろしさのあまり僧は一心不乱に念仏を唱えるのだった。

翌朝、僧は早々に家を出るが、その途中で、今から引き返して女と一緒に暮らしたいという猛烈な誘惑に駆られる。そこへ通りがかったのが、仲買屋のオヤジである。オヤジは僧が無事にあの家から出てこられたことをつくづく不思議がりながら、そのわけを話してくれた。実はあの女は魔性の者で、迷いこんできた旅人を次々と誘惑したあげく、動物にかえてしまうのだという。川で見かけた蝙蝠も猿も、そんなふうにして動物にされた男たちのなれの果てだという。そして、今しがたオヤジが売り払ってきた馬―あれは実は僧が追ってきた薬売りなのだということであった。

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