芥川龍之介「藪の中」

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藪の中 (講談社文庫)

王朝説話に材をとり、映画「羅生門」の原作となった珠玉の一編

舞台は平安時代。山中で起きたある殺人事件について、7人の関係者がそれぞれの立場から証言を行うという構成になっている。

最初の証言者は、被害者の第一発見者である木こりだ。彼は今朝、山中の藪の中で男の死骸を見つけたこと、死骸には胸に刺し傷があったものの、凶器は見当たらなかったことなどを語る。その後、さらに生前の被害者の姿を目撃していた旅法師、容疑者(多襄丸)を捕らえた放免(検非違使に使われていた下部)、被害者の妻の母親の証言が続き、被害者が妻を連れていたこと、捕らえられた容疑者が被害者からの盗品を持っていたことなどが明らかになってくる。

ここで、いよいよ当事者3人の証言となる。

①多襄丸の白状
自分は昨日の昼過ぎにあの夫婦を見かけ、女を奪ってやろうと決意した。うまいこと夫婦に近づいて山中につれこみ、油断した男を組み伏せて縛りつけ、男の前で女を犯した。事が終わって逃げようとすると、女がすがりついてきて、二人の男に恥を見せるのはしのびないので、生き残った方の妻になりたいと言う。そに気になった自分は、男の縄をほどき、太刀で勝負をつけることにした。争った末、太刀で男を刺し殺したが、女の姿はいつのまにか消えていた。

②清水寺に来れる女の懺悔
男に手ごめにされてしまった後、夫を見ると、その眼の中には言いようのない軽蔑の色が浮かんでいた。わたしはショックのあまり気を失ってしまった。目覚めてみると、男はいなくなっている。「こうなった上は、あなたとごいっしょにはおられません」と、わたしは夫を殺し、自分も死のうと決意した。夢うつつのまま小刀で夫を刺したものの、自分は死に切ることはできなかった。

③巫女の口を借りたる死霊の物語
男は妻を手ごめにした後、自分の妻にならないかと、妻を慰めだした。妻はうっとりと顔を上げ、どこへでもつれていってほしいと言った。そして、なんとおれを殺すように盗人に頼んだのだ。さすがに盗人はしばらく色を失っていたが、突然妻を蹴倒し、おれに向かって妻を殺すかどうかとたずねてきた。おれが返事をためらっていると、その間に妻は逃げてしまった。盗人もおれの縄を解いて姿を消した。残されたおれは、妻の小刀を手に取り、おのれの胸に突き刺した。意識が薄れる中で、誰かが胸の小刀を抜くのが感じられた。

3人の証言がそれぞれ食い違っている上に、3人が3人とも、自分が殺したと言い張っているのだから訳がわからない。作者は結局のところ、真実を明らかにしないまま小説の幕を閉じてしまう。真相は「藪の中」というわけだ。

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